「今日もまた、突然の腹痛に襲われ、何度もトイレに駆け込んだ…」
「好きなものを我慢する毎日、一体いつまで続くんだろう…」
「クローン病と診断されてから、将来への不安ばかりが募ってしまう…」
もしかしたら、あなたは今、終わりの見えない症状に苦しみ、先の見えない日々に不安を感じているのではないでしょうか?
クローン病は、原因不明の慢性的な炎症性腸疾患であり、腹痛や下痢といった消化器症状だけでなく、全身倦怠感や栄養障害など、様々な症状を引き起こし、あなたの日常生活に大きな影を落とすことがあります。
しかし、決して絶望しないでください。
クローン病は、適切な治療と自己管理を続けることで、症状をコントロールし、健やかな日々を送ることが可能な病気です。
この記事では、クローン病の最新の治療法(薬物療法、栄養療法、外科的治療)、日常生活を送る上での注意点、そして何よりも大切な心のケアについて、看護師の視点から、あなたの心に寄り添いながら、希望を持って生きていくための情報を徹底的に解説します。
クローン病とは:繰り返す炎症、複雑な病態、それでも希望はある
クローン病(Crohn’s disease)は、主に小腸や大腸といった消化管の粘膜に炎症が起こる、原因不明の慢性疾患です。炎症は、口から肛門までの消化管のあらゆる部位に発生する可能性があり、病変が連続しない「飛び石病変」と呼ばれる特徴を持つこともあります。
10代後半から30代の比較的若い世代に発症することが多く、症状が良くなったり(寛解期)、悪くなったり(活動期)を繰り返しながら、生涯にわたって付き合っていく必要がある病気です。
同じ炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎と比較すると、炎症が消化管の全層に及ぶことや、瘻孔(腸管と皮膚などが繋がるトンネル)や狭窄(腸管が狭くなること)などの合併症が多いといった違いがあります。
しかし、医学は日々進歩しており、クローン病の治療法も着実に進化しています。
適切な治療と自己管理によって、症状をコントロールし、活動期を最小限に抑え、寛解期を長く維持することが十分に可能です。
希望を失わずに、一緒にこの病気と向き合っていきましょう。
終わりのない腹痛、下痢だけじゃない:クローン病の多様な症状
クローン病の症状は、炎症の起こっている部位や病気の活動期によって、実に多様な現れ方をします。決して、繰り返す腹痛と下痢だけがクローン病の症状ではありません。
- 消化器症状:
- 腹痛:慢性的に続くことが多く、炎症部位によって痛む場所は様々です。食後に増強することもあり、差し込むような痛みや鈍痛など、様々な種類の痛みがあります。
- 下痢:慢性的に続き、水様便や粘血便を伴うことがあります。排便回数の増加や、夜間の下痢も特徴の一つです。
- 体重減少:食欲不振や、腸管での消化吸収障害により、意図しない体重減少が起こることがあります。
- 発熱:炎症が活動している時期に、微熱が出ることがあります。高熱の場合は、他の合併症を疑う必要があります。
- 全身倦怠感:慢性的な炎症により、強い疲労感やだるさが続くことがあります。
- 吐き気、嘔吐:炎症が上部消化管に及んでいる場合や、腸管の狭窄がある場合に起こることがあります。
- 肛門病変:痔、裂肛(切れ痔)、瘻孔、膿瘍などが高頻度に見られます。肛門の痛みや出血を伴います。
- 口内炎:再発性の口内炎が出現することがあります。
- 腸管外合併症:
- 関節炎:関節の痛みや腫れが起こることがあります。
- 皮膚症状:結節性紅斑(赤いしこり)、壊疽性膿皮症(皮膚の潰瘍)などが出現することがあります。
- 眼症状:虹彩炎(目の痛みや充血)、ぶどう膜炎(視力低下)などが起こることがあります。
- 肝胆道系の異常:原発性硬化性胆管炎(胆管の炎症と狭窄)などを合併することがあります。
これらの多様な症状が、患者さん一人ひとり異なる組み合わせで現れるため、クローン病の病態は非常に複雑であると言えます。
しかし、それぞれの症状に対する治療法も進歩しており、適切な対応によって症状をコントロールすることが可能です。
なぜ炎症が繰り返されるのか?クローン病の原因と発症メカニズムの最新知見
クローン病の根本的な原因は、いまだ完全には解明されていません。
しかし、最新の研究により、以下の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
- 免疫システムの異常な活性化:
- 本来、私たちの体を病原体から守る免疫システムが、何らかのきっかけで、腸内細菌などの本来無害な物質に対して過剰な免疫反応を起こし、慢性的な炎症を引き起こしてしまうと考えられています。
- 特に、Th1細胞やTh17細胞といった特定の免疫細胞の異常な活性化が関与していることが示唆されています。
- 遺伝的要因の関与:
- クローン病患者さんの約15~20%に、家族内発症が見られることから、遺伝的な要因が発症リスクを高めることが明らかになっています。
- これまでに、NOD2遺伝子をはじめとする複数の遺伝子がクローン病の発症に関与していることが報告されています。これらの遺伝子は、免疫応答や腸管のバリア機能などに関わっており、これらの遺伝子に変異があると、クローン病を発症しやすくなると考えられています。
- 環境要因の複雑な影響:
- 食事内容(高脂肪食、加工食品の摂取過多など)、喫煙、腸内細菌叢の異常(ディスバイオーシス)、衛生環境の変化などが、クローン病の発症や病状の悪化に関与している可能性が指摘されています。
- 特に、喫煙はクローン病の発症リスクを高めるだけでなく、病状を悪化させ、治療効果を低下させることもわかっています。
- 腸内細菌叢のバランスの乱れは、免疫システムの異常な活性化を引き起こす可能性が示唆されています。
これらの要因が単独で作用するのではなく、複雑に相互作用することで、クローン病が発症すると考えられています。現在も、世界中でこの複雑な病態の解明に向けた研究が進められています。
諦めない治療、希望の光:クローン病の診断と最新治療の選択肢
クローン病の診断は、患者さんの症状だけでなく、様々な検査の結果を総合的に評価して行われます。そして、治療法も日々進歩しており、患者さん一人ひとりの病状に合わせた個別化された治療が可能になりつつあります。
- 診断への道のり:
- 丁寧な問診:症状の詳細な経過、既往歴、家族歴などを詳しくお伺いします。
- 血液検査:炎症マーカー(CRP、血沈)、貧血の有無、栄養状態などを評価します。クローン病に関連する抗体(ASCA、ANCA)の測定も補助的な診断に用いられます。
- 便検査:細菌や寄生虫感染の否定、便中カルプロテクチンなどの炎症マーカーの測定を行います。
- 内視鏡検査:
- 大腸内視鏡検査:炎症の範囲、潰瘍の形状、粘膜の状態などを直接観察し、組織を採取して病理検査を行います。病変の非連続性や、縦走潰瘍、敷石状病変などがクローン病の特徴的な所見です。
- 小腸内視鏡検査(バルーン内視鏡、カプセル内視鏡):大腸内視鏡では観察困難な小腸深部の病変を確認します。
- 上部消化管内視鏡検査:食道、胃、十二指腸の病変の有無を確認します。
- 画像検査:
- 腹部X線検査、CT検査、MRI検査:腸管壁の肥厚、狭窄、瘻孔、膿瘍などの合併症の評価に有用です。
- 小腸造影検査:小腸全体の病変の広がりや狭窄の程度を評価します。
- 最新治療の選択肢:
- 薬物療法:
- 5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA):軽症から中等症の活動期、および寛解維持に使用されます。
- 副腎皮質ステロイド:中等症から重症の活動期に、強力な抗炎症効果を発揮しますが、長期使用は副作用のリスクがあるため、慎重に使用されます(局所作用型のブデソニドなど、副作用の少ないステロイドも使用されます)。
- 免疫調節薬:アザチオプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサートなどが使用され、ステロイドの減量や寛解維持に貢献します。効果発現には時間がかかることがあります。
- 生物学的製剤:TNF-α阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ)、インテグリン阻害薬(ベドリズマブ)、IL-12/23阻害薬(ウステキヌマブ)などが使用され、既存の治療で効果不十分な中等症から重症の患者さんに高い効果を発揮します。
- JAK阻害薬:ウパダシチニブ、フィルゴチニブなどの内服薬が登場し、新たな治療の選択肢となっています。
- 栄養療法:
- 成分栄養療法、経腸栄養療法:腸管を休ませ、炎症を鎮静化させる効果があり、特に活動期に用いられます。手術後の栄養管理にも重要です。
- 外科的治療:
- 狭窄、瘻孔、膿瘍などの合併症に対して、腸管切除術や瘻孔閉鎖術などが行われます。病変のある部分を切除することで、症状の改善が期待できますが、再発のリスクがあるため、慎重に検討されます。
- 集学的治療と心のケア:
- 医師、看護師、栄養士、薬剤師、ソーシャルワーカーなどが連携し、患者さんの身体的なサポートだけでなく、精神的なサポートも行います。患者会への参加も、同じ病気を持つ仲間と交流することで、精神的な支えとなることがあります。
- 薬物療法:
クローン病の治療は、患者さんの病状、合併症、生活スタイルなどを考慮して、個別化された治療計画が立てられます。諦めずに、医師や医療チームと協力して、最適な治療法を見つけていきましょう。
クローン病と生きる、希望を繋ぐQ&A
Q:クローン病と診断されました。この病気と一生付き合っていくことになるのでしょうか?
A:はい、クローン病は現在のところ、根治させる治療法は見つかっていないため、生涯にわたって付き合っていくことになる可能性が高い病気です。しかし、「一生付き合う」ということは、「一生苦しみ続ける」ということではありません。
適切な治療を継続し、病状が安定した寛解期を長く維持することで、日常生活にほとんど支障なく、健やかな生活を送っている患者さんはたくさんいらっしゃいます。
大切なことは、病気を受け止め、医師や医療チームと協力しながら、根気強く治療を続けていくことです。悲観的にならず、希望を持って、前向きにこの病気と向き合っていきましょう。
Q:クローン病の薬物療法は、副作用が心配です。どのように付き合っていけば良いでしょうか?
A:クローン病の治療薬には、種類によって様々な副作用の可能性があります。ご心配な気持ちはよくわかります。副作用と上手に付き合っていくためには、以下の点が大切です。
- 医師や薬剤師からの説明をしっかり聞く:使用する薬の効果だけでなく、起こりうる副作用、その対処法などを詳しく説明してもらいましょう。
- 自己判断で薬を中止しない:副作用が気になる場合は、自己判断で薬を中止するのではなく、必ず医師に相談してください。医師が、薬の種類や量を調整したり、副作用を軽減する薬を処方したりするなど、適切な対応を検討してくれます。
- 気になる症状はすぐに報告する:いつもと違う症状が現れた場合は、我慢せずに医師や看護師に報告してください。早期に適切な対応をとることで、重篤な副作用を避けることができます。
- 定期的な検査を受ける:薬によっては、定期的な血液検査や画像検査が必要になることがあります。医師の指示に従い、きちんと検査を受けましょう。
- 生活習慣を整える:規則正しい生活、十分な睡眠、バランスの取れた食事などは、体の免疫力を高め、副作用を軽減する助けになります。
副作用は決して他人事ではありませんが、過度に恐れる必要もありません。医師や医療チームと連携しながら、安心して治療を続けられるように、一緒に考えていきましょう。
Q:クローン病の活動期は、本当に何も食べられないのでしょうか?少しでも楽に食事をする方法はありますか?
A:クローン病の活動期には、腸管の炎症が強いため、食事を摂ると腹痛や下痢が悪化することがあります。そのため、医師の指示により絶食や、消化吸収の負担が少ない成分栄養療法などが行われることがあります。
しかし、症状が落ち着いてきたら、少しずつ食事を再開していくことが大切です。少しでも楽に食事をするための工夫としては、以下のものがあります。
- 消化の良いものを選ぶ:柔らかく煮込んだもの、細かく刻んだもの、脂肪分の少ないものなど、消化しやすい食品を選びましょう。
- 低残渣食を心がける:食物繊維の多い野菜や果物、きのこ類、海藻類などは、腸管を刺激することがあるため、活動期には控えめにしましょう。
- 少量頻回食にする:一度にたくさん食べると、腸管に負担がかかりやすいため、1回の食事量を減らし、食事回数を増やしましょう。
- 温かい食事を摂る:冷たい食事は、腸管を刺激することがあります。
- 十分に水分補給をする:下痢などで脱水になりやすいため、こまめに水分を補給しましょう。
- 食事日記をつける:何を食べると症状が悪化しやすいかなどを把握するために、食事の内容と症状を記録するのも有効です。
食事の内容や進め方は、患者さんの病状によって大きく異なります。自己判断で食事制限をするのではなく、必ず医師や管理栄養士の指導のもと、あなたに合った食事療法を見つけていきましょう。
Q:クローン病の患者ですが、仕事や学校生活を送る上で、どのようなことに気をつければ良いでしょうか?
A:クローン病と診断されても、多くの方が仕事や学校生活を送っています。しかし、病状によっては、いくつか配慮が必要になる場合があります。
- 体調管理を第一に:無理のないスケジュールを組み、体調が悪いときは無理せず休息しましょう。
- 症状が出たときの対応を考えておく:急な腹痛や下痢に備えて、職場や学校に理解を求め、トイレに行きやすい環境を整えてもらいましょう。着替えや下着の予備を用意しておくと安心です。
- 服薬管理をしっかり行う:決められた時間にきちんと薬を服用することが、病状の安定につながります。
- 主治医や学校・職場の担当者と連携する:病状や治療について理解してもらい、必要な配慮やサポートを受けられるように、積極的にコミュニケーションを取りましょう。
- ストレスを溜め込まない:ストレスは病状を悪化させる可能性があります。自分に合ったストレス解消法を見つけ、上手にストレスをコントロールしましょう。
- 利用できる制度を知っておく:障害者手帳の取得や、医療費助成制度など、利用できる社会的な制度がある場合があります。医療ソーシャルワーカーなどに相談してみましょう。
クローン病があっても、諦めずに、自分らしい生活を送るために、周囲のサポートを積極的に活用していきましょう。
Q:クローン病の患者ですが、精神的に辛い時期があります。誰かに相談したいのですが、どこに相談すれば良いでしょうか?
A:クローン病のような慢性的な病気と付き合っていく中で、精神的に辛い時期があるのは自然なことです。一人で悩まずに、ぜひ誰かに相談してください。
- 主治医や看護師:あなたの病状をよく理解しているので、安心して相談できます。
- 医療ソーシャルワーカー(MSW):医療費や生活に関する相談だけでなく、精神的なサポートについても相談に乗ってくれます。
- 患者会:同じ病気を持つ仲間と交流することで、気持ちを共有したり、情報交換をしたりすることができます。
- 臨床心理士、カウンセラー:専門的なカウンセリングを受けることで、心の負担を軽減することができます。
- 精神科医:必要に応じて、薬物療法などの専門的な治療を受けることができます。
一人で抱え込まずに、様々な相談窓口を活用して、心の健康も大切にしてください。あなたの気持ちを理解し、支えてくれる人は必ずいます。
看護師として伝えたいこと:クローン病と向き合うあなたを、私たちは全力で支えます
クローン病と診断され、先の見えない不安や、繰り返す症状による苦痛を感じている方もいらっしゃるかもしれません。もしかしたら、「どうして私がこんな病気に…」と、孤独を感じているかもしれません。
クローン病は、決して稀な病気ではなく、多くの仲間が同じように悩み、苦しみながらも、前向きに生きています。
治療は長く、時には思うように症状が改善しないこともあるかもしれません。心が折れそうになることもあるでしょう。そんな時は、遠慮せずに医療機関に相談してください。
最新の治療法は日々進歩しており、寛解を維持し、QOL(生活の質)を高めるための選択肢は増えています。あなたにとって最善の治療法を見つけていきましょう。
そして、同じ病気を持つ仲間との繋がりも大切にしてください。患者会などを通じて、経験や情報を共有したり、お互いを励まし合ったりすることで、心の支えとなるはずです。
あなたは一人ではありません。私たちは、あなたの笑顔と、あなたが希望を持って生きていくことを、心から願っています。どんな小さなことでも構いません。いつでも、医療機関を頼ってください。
出典
- 日本大腸肛門病学会 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,クローン病):https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=15
- 難病情報センター クローン病(指定難病96):https://www.nanbyou.or.jp/entry/81