「人生で一番痛かった…」
尿路結石を経験された方からよく聞かれる言葉です。
突然の腰や脇腹の激痛は、日常生活に大きな支障をきたします。
この記事では、腎臓から尿道に至る尿の通り道(尿路)にできる結石、すなわち尿路結石について、その原因、症状、最新の治療法、そして自宅でできる予防法までを解説します。
尿路結石とは?:尿路にできる結石の総称
尿路結石とは、腎臓、尿管、膀胱、尿道といった尿の通り道(尿路)にできる結石の総称です。
結石ができた場所によって、以下の4つに分類されます。
- 腎臓結石(腎結石): 腎臓の腎盂(じんう)や腎杯(じんぱい)にできる結石。
- 尿管結石: 腎臓と膀胱をつなぐ尿管にできる結石。
- 膀胱結石: 膀胱にできる結石。
- 尿道結石: 膀胱から体の外へ尿を排出する尿道にできる結石。
腎臓結石と尿管結石はまとめて「上部尿路結石」、膀胱結石と尿道結石はまとめて「下部尿路結石」と呼ばれます。
尿路結石の症状:激痛(疝痛発作)と排尿異常
尿路結石の最も特徴的な症状は、激しい痛み(疝痛発作)です。
これは、結石が尿路を移動する際に尿の流れが阻害され、尿路の内圧が上昇するために起こります。
上部尿路結石(腎臓結石・尿管結石)の症状
- 激しい脇腹・背部痛(疝痛発作): 突然、差し込むような、あるいは締め付けるような激しい痛みが現れます。七転八倒するほどの痛みで、冷や汗、吐き気、嘔吐などを伴うこともあります。痛みは、結石が下降するにつれて、下腹部、鼠径部、外陰部、太ももへと移動することがあります(放散痛)。
- 血尿: 尿に血が混じる(肉眼的血尿または顕微鏡的血尿)。痛みの前後に見られることが多いです。
- その他の症状: 頻尿、残尿感などが現れることもあります。
下部尿路結石(膀胱結石・尿道結石)の症状
- 排尿時痛: 排尿時に痛みを感じる。
- 頻尿: 排尿回数が増える。
- 残尿感: 排尿後も尿が残っている感じがする。
- 排尿困難: 尿が出にくい、または全く出ない。
- 尿意切迫感: 急に尿意を感じ、我慢するのが難しい。
- 血尿: 尿に血が混じる。
尿路結石の原因:尿中の成分のバランスの乱れ
尿路結石の主な原因は、尿中のカルシウム、シュウ酸、リン酸、尿酸などの成分が過剰になり、結晶化して結石を形成することです。
これらの成分のバランスが崩れる原因としては、以下の要因が考えられます。
- 食生活:
- 動物性タンパク質の過剰摂取
- シュウ酸を多く含む食品(ほうれん草、タケノコ、チョコレート、紅茶など)の過剰摂取
- 塩分の過剰摂取
- 果糖の過剰摂取
- 水分不足: 水分摂取不足は、尿が濃縮され、結石が形成されやすくなります。
- 体質(遺伝的要因): 家族歴がある場合、結石ができやすい体質を受け継いでいる可能性があります。
- 病気:
- 高尿酸血症(痛風)
- 副甲状腺機能亢進症
- 尿路感染症
- 腎臓の病気(腎尿細管性アシドーシスなど)
- 薬剤: 一部の薬剤(例:利尿薬、ステロイド薬など)の副作用で結石ができやすくなることがあります。
尿管に結石が長期間留まると、腎臓に尿がたまって拡張する水腎症を引き起こすことがあります。
尿路結石の診断:画像検査と尿検査が中心
尿路結石の診断には、以下の検査が行われます。
- 尿検査: 尿中の血液、結晶、細菌などを調べます。
- 血液検査: 腎機能、電解質バランス、尿酸値などを評価します。
- 画像検査:
- 腹部X線検査(KUB): 結石の有無や位置を確認します。カルシウム結石はX線で写りますが、尿酸結石などは写らない場合があります。
- 腹部超音波検査(エコー検査): 腎臓や尿管の状態、水腎症の有無などを確認します。妊娠中の方など、X線検査ができない場合にも有用です。
- 尿路造影検査(IVP): 造影剤を使用して尿路をX線撮影し、結石の位置や尿路の通過状態などを詳しく調べます。
- CT検査(特に単純CT): 結石の有無、位置、大きさ、性状(カルシウム結石か尿酸結石かなど)を詳細に評価できます。特に、造影剤を使用しない単純CT検査は、尿路結石の診断に非常に有用です。緊急時にも迅速に診断が可能です。
尿路結石の治療:保存療法、体外衝撃波、内視鏡手術、薬物療法
尿路結石の治療は、結石の大きさ、位置、症状、患者さんの状態、合併症の有無などによって異なります。主に以下の治療法があります。
保存療法(薬物療法・食事療法を含む)
小さい結石(一般的に5mm以下、特に4mm以下)は、尿とともに自然に排出されることが多いため、まずは保存療法が選択されます。
- 十分な水分摂取: 1日2リットル以上(できれば3リットル)の水分摂取を心がけ、尿量を増やすことで、結石の排出を促します。
- 鎮痛剤(薬物療法): 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが使用され、痛みを和らげます。痛みが強い場合は、医療機関で適切な鎮痛薬(オピオイドなど)の処方を受けることが必要です。
- 排石促進薬(薬物療法): α1遮断薬などが使用され、尿管の筋肉を弛緩させることで、結石の排出を促進します。
- 食事療法: 食事内容の見直しも重要です。詳しくは後述の「尿路結石の予防:生活習慣の見直しが大切」の項目をご覧ください。
体外衝撃波結石破砕術(ESWL)
体外から衝撃波を当てて結石を砕き、尿とともに排出する方法です。
比較的侵襲性の低い治療法で、多くの症例で有効です。
ただし、結石の大きさ(一般的に15mm程度まで)、位置、性状(硬さ)、患者さんの体格、妊娠中などによっては適応とならない場合があります。
また、複数回の治療が必要となる場合もあります。
内視鏡的結石除去術
内視鏡を尿道から膀胱、尿管、腎臓へと挿入し、レーザーなどで結石を砕いたり、バスケットカテーテルなどで直接摘出する方法です。
- 経尿道的尿管結石砕石術(TUL): 尿道から尿管に内視鏡(尿管鏡)を挿入して結石を砕きます。レーザー砕石術が一般的です。
- 経皮的腎砕石術(PNL): 背中から腎臓に針を刺し、そこから内視鏡(腎瘻)を挿入して結石を砕きます。比較的大きな腎臓結石(サンゴ状結石など)に適応されます。
内視鏡手術は、ESWLで破砕が困難な場合や、結石が大きい場合、感染を伴う場合などに選択されます。全身麻酔または腰椎麻酔で行われます。
その他の治療法
上記以外にも、まれに開腹手術が行われることがあります。
また、尿路感染を合併している場合は、抗菌薬による治療も行われます。
尿路結石の予防:生活習慣の見直しが大切
結石の予防には、生活習慣の見直しが非常に重要です。
特に、過去に結石を経験したことがある方は、再発予防のために積極的に取り組むことをお勧めします。
- 十分な水分摂取: 1日2リットル以上(できれば3リットル)の水分摂取を心がけ、尿量を増やすことで、結石の形成を抑制します。特に、就寝前や起床後、運動後などは積極的に水分補給をしましょう。水やお茶(ただし、紅茶などシュウ酸を多く含むものは過剰摂取を避ける)、麦茶など、糖分の少ない飲み物が適しています。ジュースなどの糖分を多く含む飲み物は、結石のリスクを高める可能性がありますので、控えましょう。
- バランスの取れた食生活:
- 動物性タンパク質の過剰摂取を控える: 動物性タンパク質の過剰摂取は、尿中のカルシウムや尿酸の排泄を増加させ、結石のリスクを高める可能性があります。
- シュウ酸を多く含む食品の過剰摂取を控える: ほうれん草、タケノコ、チョコレート、紅茶などに多く含まれるシュウ酸は、カルシウムと結合してシュウ酸カルシウム結石を形成しやすくなります。ただし、これらの食品を全く摂らないのではなく、過剰摂取を避けることが重要です。茹でる、水にさらすなどの調理法でシュウ酸を減らすこともできます。
- カルシウムを適度に摂取する: カルシウムは、腸内でシュウ酸と結合し、便として排泄されるため、適度な摂取は結石予防に役立ちます。ただし、過剰なカルシウム摂取は、高カルシウム尿症を引き起こし、逆に結石のリスクを高める可能性もありますので、注意が必要です。食事からの摂取が基本となります。
- 塩分を控える: 塩分の過剰摂取は、尿中のカルシウム排泄を増加させ、結石のリスクを高める可能性があります。
- クエン酸を摂取する: クエン酸は、カルシウムと結合して結石の形成を抑制する作用があります。柑橘類(レモン、グレープフルーツなど)に多く含まれています。
- マグネシウムを摂取する: マグネシウムも、結石の形成を抑制する作用があると言われています。海藻類、豆類、ナッツ類などに多く含まれています。
- バランスの良い食事を心がける: 上記の点を考慮しつつ、偏食を避け、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。
- 適度な運動: 適度な運動は、尿路の通過を促進し、結石の排出を助ける効果があると考えられます。また、生活習慣病の予防にもつながり、間接的に結石のリスクを低減することができます。
- 生活習慣病の予防: 肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病は、結石のリスクを高めるため、予防に努めましょう。
- 定期的な検査: 過去に結石を経験したことがある方は、定期的な検査を受けることで、再発を早期に発見することができます。
尿路結石は、激しい痛みを伴うことがありますが、適切な治療と予防によって、症状を緩和し、再発を防ぐことが可能です。気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
また、日頃から生活習慣を見直し、結石の予防に努めることが大切です。
出典
- 日本泌尿器科学会 (https://www.urol.or.jp/)