運動中やスポーツをしている最中に、突然「ブチッ」とか「パチン」といった音や、強い痛みを経験したことはありませんか?
特に太ももの裏側(ハムストリングス)やふくらはぎの筋肉に起こりやすいその痛みは、「肉ばなれ」かもしれません。
肉ばなれは、文字通り筋肉の線維が切れてしまうケガで、適切な手当てをしないと回復が遅れたり、再発しやすくなったりすることがあります。
しかし、ケガの直後にどう対応するかを知っているかいないかで、その後の回復は大きく変わってきます。
この記事では、看護師の視点から、肉ばなれがどんなケガなのか、ケガのサイン、原因、そして「もしも」の時にすぐできる応急処置や、早く回復するためのケア、さらには再発予防策までを分かりやすくお伝えします。
肉ばなれって、どんなケガ?
私たちの体は、たくさんの筋肉で動いています。筋肉は、細い線維(筋線維)が集まってできています。
肉ばなれとは、この筋線維の一部、または大部分が、急激な力によって断裂(損傷)してしまうケガです。筋肉そのものや、筋肉と骨をつなぐ腱(けん)の近くで起こることが多いです。
スポーツで起こることが非常に多く、特にダッシュ、ジャンプ、急停止、方向転換といった、筋肉が強く収縮している時に無理に引き伸ばされるような動作で発生しやすいです。
気づいて!肉ばなれの主なサインと症状
肉ばなれが起きた時、多くの場合は以下のようなサインや症状が現れます。
- ケガをした瞬間の感覚: 「ブチッ」「パチン」「ゴリッ」といった音が聞こえた、または筋肉が切れるような、何かが弾けるような感覚があった、と感じることがあります。
- 強い痛み: ケガをした筋肉の場所に、突然の鋭い痛みが発生します。この痛みのため、体重をかけたり、その筋肉を動かしたりすることが難しくなります。
- 押すと痛い(圧痛): ケガをした場所を指で押すと、強い痛みを感じます。
- 内出血や腫れ: 時間が経つと、ケガをした場所の周辺が腫れてきたり、皮下出血によって青紫色に変色したりすることがあります。
- へこみや陥凹: 筋肉が大きく断裂した場合、ケガをした場所に触れると、筋肉がへこんでいるのが分かることがあります。
- 力が入らない、動かせない: 痛みが強いために、ケガをした筋肉に力が入らず、関節を動かせなくなったり、歩けなくなったりします。
症状の程度は、筋肉の断裂の範囲によって異なります。
- 軽度の場合: 軽い痛みや圧痛はありますが、歩行は可能であったり、あまり大きな支障がなかったりします。
- 中等度の場合: 痛みで歩行が少し難しくなったり、ケガをした筋肉を伸ばしたり縮めたりするのがつらくなります。腫れや内出血が見られることもあります。
- 重度の場合: 激痛で全く体重をかけられず、歩行が不可能になります。強い腫れや広範囲の内出血が見られ、筋肉のへこみがはっきりと分かることもあります。
どうして起こるの?原因とリスク要因
肉ばなれは、筋肉が収縮している(縮もうとしている)時に、それ以上に強く引き伸ばされるという、筋肉にとって限界を超える力がかかった時に起こります。
具体的には、以下のような状況や要因があると、肉ばなれを起こしやすくなります。
- 準備運動・ウォーミングアップ不足: 筋肉が十分に温まっておらず、硬い状態のまま急に激しい運動をすると、筋肉が引き伸ばされる力に耐えきれず断裂しやすくなります。
- 筋肉の疲労: 練習のしすぎや休息不足で筋肉が疲れていると、柔軟性や伸縮性が低下し、ケガのリスクが高まります。
- 柔軟性の不足: 日頃からストレッチなどで筋肉を柔らかく保っていないと、筋肉が伸びにくく、断裂しやすくなります。
- 筋力不足や筋力のアンバランス: 筋力が弱い、または体の一部の筋肉と別の筋肉の力のバランスが悪いと、無理な負担がかかりやすくなります。
- フォームやテクニックの問題: スポーツの動作の中で、筋肉に過度な負担がかかる不適切な体の使い方をしている場合も、原因となります。
- 気温: 寒い時期は筋肉が硬くなりやすいため、特に注意が必要です。
- 過去の肉ばなれの経験: 一度肉ばなれを起こした部分は、完全に回復していないと再発しやすい傾向があります。
ケガしたらすぐに行うべきこと!応急処置「RICE(ライス)」
肉ばなれをしてしまったかもしれない、と思ったら、ケガの直後からいかに早く適切な処置を行うかが、その後の回復に大きく影響します。病院に行くまでの間に、自宅やグラウンドでできる応急処置の基本が「RICE(ライス)」です。
RICEは、以下の4つの頭文字をとったものです。
- R (Rest) 安静(あんせい):
- 何をやる? ケガをした場所を、とにかく動かさないようにします。無理に歩いたり、痛む動作を続けたりしないようにします。
- なぜ必要? 動き続けることで、筋肉の損傷を広げたり、内出血をひどくしたりするのを防ぎます。
- I (Ice) 冷却(れいきゃく):
- 何をやる? アイスパックや氷嚢(ひょうのう)などをタオルで包み、ケガをした部分に当てて冷やします。直接肌に当てると凍傷になることがあるので、必ずタオルなどを挟みましょう。一度に15分~20分程度冷やし、皮膚の感覚が戻ったら一度外し、また痛みが戻るようなら繰り返します(1~2時間おきなど)。
- なぜ必要? 炎症を抑え、痛みや腫れを軽減し、内出血が広がるのを抑える効果があります。ケガから24~48時間以内が特に重要です。
- C (Compression) 圧迫(あっぱく):
- 何をやる? 弾力性のある包帯(バンテージ)やサポーターなどで、ケガをした部分を心臓から遠い方(手足の先)から近い方(体の中心)に向かって、締め付けすぎないように巻きます。
- なぜ必要? 腫れや内出血が広がるのを防ぎ、軽減する効果があります。ただし、血行が悪くならないよう、しびれや皮膚の色の変化がないか注意してください。
- E (Elevation) 挙上(きょじょう):
- 何をやる? ケガをした部分(手や足など)を、座ったり寝たりしながら、心臓よりも高い位置に上げます。クッションや座布団などを活用しましょう。
- なぜ必要? 重力の力を利用して、腫れや内出血が起こるのを最小限に抑えます。
RICE処置は、ケガをしてからできるだけ早く(理想的には数分以内)開始し、少なくとも最初の24~48時間は続けることが重要です。
その後のケアと治癒のプロセス
RICE処置を行ったら、症状が軽い場合でも一度は医療機関(整形外科など)を受診することをお勧めします。医師が損傷の程度を正確に診断し、適切な治療計画を立ててくれます。
診断は、医師による問診や触診、痛む場所や動きの確認に加え、必要に応じて超音波検査(エコー)やMRI検査といった画像検査が行われることもあります。
肉ばなれの回復は、一般的に以下の段階をたどります。
- 炎症期(ケガ直後~数日): 痛みや腫れ、内出血が強く出る時期です。この時期はRICE処置が中心となります。無理に動かしたり温めたりするのは禁物です。
- 修復期(数日~数週間): 傷ついた筋線維が再生し始める時期です。痛みが和らぎ、腫れも引いてきます。この時期から、痛みのない範囲で軽いストレッチや、筋肉にあまり負担をかけない動き(アイソメトリック運動など)を始めることがあります。
- リハビリテーション期(数週間~数ヶ月): 筋肉の機能回復を目指す時期です。段階的にストレッチの強度を上げたり、筋力トレーニングを行ったり、バランス能力を改善したりします。徐々にウォーキング、軽いジョギング、そして元のスポーツ動作へと進んでいきます。
重症で筋肉の断裂が大きい場合など、ごく稀に手術(筋肉を縫い合わせる)が必要となることもありますが、ほとんどの場合は手術以外の方法で回復を目指します。
看護師は、病院での初期対応から、自宅でのRICE処置の具体的な方法のアドバイス、痛みのコントロールに関する情報提供、そして医師や理学療法士と連携しながら、リハビリテーションの必要性や、安全に進めるための注意点をお伝えすることで、あなたの回復をサポートします。
リハビリテーションの重要性
「痛みがなくなったからもう大丈夫!」と、いきなりケガをする前の激しい運動に戻ってしまうのは、肉ばなれで最も危険な行為の一つです。
痛みが消えていても、損傷した筋線維の強度がまだ十分でなかったり、硬さが残っていたりすることがよくあります。
適切なリハビリテーションを行わないと、筋肉の機能が十分に回復せず、再発のリリスクが非常に高くなってしまいます。
理学療法士などの専門家の指導のもと、痛みのない範囲で、ゆっくりと、段階的に運動の強度を上げていくことが、完全に回復し、再発を防ぐためには欠かせません。
焦らず、自分の体の声を聞きながら進めましょう。
もう繰り返さないために~予防策~
つらい肉ばなれを経験しないためには、日頃からの予防が何よりも大切です。
- 十分なウォーミングアップ: 運動前に、軽く体を動かしたり、動的ストレッチ(ラジオ体操のような動き)を行ったりして、筋肉を温め、関節の可動域を広げましょう。
- 丁寧なクールダウンとストレッチ: 運動後には、ゆっくりと筋肉を伸ばす静的ストレッチを行い、筋肉の柔軟性を保ちましょう。
- 適切な筋力トレーニング: 筋肉のバランスを整え、特に肉ばなれを起こしやすい部分や体幹の筋力を強化することも予防につながります。
- 体のケア: 疲労をためすぎないよう十分な休息を取り、栄養バランスの良い食事と十分な水分補給を心がけましょう。
- 正しいフォームの習得: スポーツや運動のコーチ、トレーナーなどに相談し、体に負担のかかりにくい正しい体の使い方を身につけましょう。
- 寒さ対策: 寒い環境で運動する際は、体が冷えないよう服装に気を配り、より入念なウォーミングアップを行いましょう。
過去に肉ばなれをしたことがある方は、特にこれらの予防策を意識して、再発を防ぐことが重要です。
よくあるご質問に看護師がお答えします
Q1: 肉ばなれってどのくらいで治りますか?スポーツに復帰できますか?
A1: 肉ばなれの回復期間は、ケガの重症度、年齢、体の回復力、そして何よりも、その後の適切なケアとリハビリをしっかり行えるかによって大きく異なります。
一概に〇日、〇週間と言い切ることは難しいです。
- 軽度の場合: 安静と適切なケアで、1~2週間で日常生活での痛みが軽減し、3~4週間程度で軽い運動から段階的に再開できることが多いです。
- 中等度の場合: 痛みが完全に引くまでに数週間かかることがあり、本格的なスポーツ復帰までには1ヶ月半~数ヶ月かかることもあります。
- 重度の場合: 痛みが長引き、本格的なスポーツ復帰までには数ヶ月、場合によっては半年以上かかることもあります。手術が必要な場合は、さらにリハビリ期間が必要になります。
大切なのは、痛みがなくなったからといって急に無理をせず、必ず段階を踏んで運動強度を上げていくことです。
焦って復帰すると、再発してしまい、さらに回復が遅れることにもなりかねません。
医師や理学療法士の指示に従い、痛みや体の状態を確認しながら慎重に進めていきましょう。
Q2: 応急処置のRICEは、いつまで続ければ良いですか?
A2: RICE処置は、ケガをした直後からできるだけ早く開始し、少なくとも最初の24時間から48時間は重点的に行うのが基本です。
- 冷却(Ice): ケガの直後の炎症や内出血を抑えるために最も重要です。最初の24~48時間、痛みが強い間は、1~2時間おきに15~20分程度の冷却を繰り返しましょう。その後は、必要に応じて痛む時や運動後に冷やすことがあります。
- 安静(Rest)、圧迫(Compression)、挙上(Elevation): 腫れや痛みが落ち着くまで、数日間~1週間程度続けることが多いです。寝ている間など、長時間圧迫したままにするのは避け、適宜外して血行を確認してください。
症状の程度によってRICE処置が必要な期間は変わります。
痛みが強かったり、腫れがひどかったりする場合は、自己判断せず医療機関に相談し、指示を仰ぐことが大切です。
Q3: 自分で判断せず、すぐに病院に行った方が良い肉ばなれはどんな場合ですか?
A3: 以下のような場合は、肉ばなれが重症である可能性や、他の骨や靭帯のケガが合併している可能性も考えられるため、自己判断せずにできるだけ早く医療機関(整形外科)を受診することを強くお勧めします。
- ケガをした瞬間に「ブチッ」という音や断裂したような感覚がはっきりあった場合。
- 痛みが非常に強く、全く体重をかけられない、または患部を少しも動かせない場合。
- ケガをした場所に明らかなへこみ(陥凹)がある場合。
- 腫れや内出血がひどく、みるみる広がってくる場合。
- RICE処置を24~48時間行っても、痛みや腫れが全く改善しない、または悪化する場合。
- 肉ばなれだと思ったけれど、骨折や靭帯損傷の可能性も考えられるような強い衝撃があった場合。
迷う場合は、まずは医療機関に相談することが安心につながります。
Q4: 肉ばなれを繰り返さないためには、どんな予防が効果的ですか?
A4: 肉ばなれは一度起こすと、再発しやすいケガの一つです。再発を防ぐためには、日頃からのケアと準備が非常に重要になります。
最も効果的な予防策は、「適切なウォーミングアップとクールダウンを習慣にする」ことです。
運動前には、筋肉を温め、動きを滑らかにする動的ストレッチを取り入れ、運動後にはゆっくりと筋肉を伸ばす静的ストレッチを丁寧に行いましょう。
また、筋肉の柔軟性とバランスの良い筋力を維持することも大切です。
特定の筋肉だけでなく、体幹を含めた全身のバランスを考えたトレーニングを取り入れましょう。
過去に肉ばなれをした部位は特に、再発予防のためのストレッチや軽い筋力トレーニングを継続することが効果的です。
さらに、運動による疲労をためすぎないよう十分な休息を取ること、バランスの良い食事と適切な水分補給で体のコンディションを整えることも、筋肉の健康を保つ上で欠かせません。
スポーツのフォームに不安がある場合は、専門家に相談するのも良いでしょう。
最後に
肉ばなれは、スポーツを頑張る方に起こりやすいつらいケガです。
もしケガをしてしまっても、適切に応急処置を行い、焦らずしっかりとリハビリテーションに取り組むことで、多くの場合、元のパフォーマンスを取り戻すことができます。
大切なのは、ケガのサインを見逃さず、正しい知識を持って対処すること、そして何よりもご自身の体の声に耳を傾けることです。
もしケガをして不安な時や、予防についてもっと詳しく知りたい時は、いつでも医療機関にご相談ください。あなたのスポーツライフが安全で健康であるよう応援しています!
出典
- 日本臨床整形外科学会 【誤った知識】肉ばなれは放っておけば治る:【誤った知識】肉ばなれは放っておけば治る | 健康相談 | 日本臨床整形外科学会
- 日本スポーツ整形外科学会 スポーツ損傷シリーズ 肉離れ: https://jsoa.or.jp/content/images/2023/05/s05.pdf