肩の激痛で腕が上がらない…もしかして腱板断裂?原因・症状・治し方とリハビリ【看護師監修】

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「肩が痛くて、腕を上げようとするとズキンと激しい痛みが走る…」
「夜中に肩が痛くて目が覚める、寝返りも打てない…」
「高いところの物が取れない、洗濯物を干すのもつらい…」

このような肩の痛みや、腕が思うように動かせないといったお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?
もしかしたらそれは、「腱板(けんばん)断裂」のサインかもしれません。

腱板断裂は、年齢とともに増える傾向にありますが、スポーツや転倒といった強い衝撃が原因で若い世代にも起こることがあります。
放置すると症状が悪化したり、肩が固まってしまったりする可能性もあるため、早期に気づき、適切なケアを始めることが大切です。

この記事では、看護師の視点から、腱板とは何か、腱板断裂はどんなケガなのか、その原因や現れる症状、そして病院での診断から、保存療法、手術、その後のリハビリテーション、日常生活での工夫まで、分かりやすくお伝えします。
肩の痛みに悩むあなたが、少しでも楽になり、希望を持てるような情報をお届けします。

腱板ってどんなもの?腱板断裂とは?

私たちの肩の関節は、腕の骨(上腕骨)の丸い頭と、肩甲骨の浅い受け皿でできており、非常に大きく動かすことができます。
この自由な動きを可能にしつつ、肩関節を安定させているのが、「腱板」と呼ばれる重要な組織です。

腱板は、肩甲骨から上腕骨の頭(骨頭)にかけて付着している、4つの筋肉の腱(けん)が集まってできています。
具体的には、「棘上筋(きょくじょうきん)」「棘下筋(きょくかきん)」「小円筋(しょうえんきん)」「肩甲下筋(けんこうかきん)」という4つの筋肉の腱の総称です。
これらの腱板が共同で働くことで、腕を上げたり、回したりする動作をスムーズに行い、肩関節が不安定にならないように支えています。

腱板断裂とは、この4つの腱のうち、いずれか一つ、または複数が切れてしまった状態を指します。
完全に切れてしまう「完全断裂」と、一部が損傷している「部分断裂」があります。

こんな症状に心当たりはありませんか?腱板断裂の主なサインと症状

腱板断裂の症状は、切れた腱の種類や大きさ、原因によって様々ですが、主に以下のような症状が現れることが多いです。

  • 肩の痛み:
    • 夜間痛: 寝ている時に肩がズキズキと痛み、寝返りが打てなかったり、痛い方を下にして眠れなかったりすることがあります。これは、腱板への血流が減ることや、炎症が起こることで痛みが増すためと考えられています。
    • 腕を上げる時、特定の動きで痛む: 特に、腕を肩の高さまで持ち上げる動作や、さらに高く上げる動作、あるいは腕を外側にひねる動作(着替えや物を取るなど)で痛みが強く現れることがあります。
    • 安静時にも鈍い痛み: 断裂が進行すると、安静にしていても肩の奥の方で鈍い痛みを感じることがあります。
  • 腕の力の弱さ:
    • 腕を上げようとしても力が入らず、途中でガクッと落ちてしまったり、物を持ったり、引いたりする動作で力が入りにくくなったりします。
    • 「偽性麻痺(ぎせいまひ)」: 自分の力では腕を上げられないけれど、他の人が腕をそっと支えて上げると、ある程度の高さまで上がる、といった現象が見られることもあります。
  • 肩の動きの制限:
    • 腕を上げる動作がしにくくなるだけでなく、腕を背中に回す動作や、頭の後ろに回す動作など、肩の可動域全体が制限されることがあります。
    • ただし、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)と異なり、完全に固まってしまうことは比較的少ないです。
  • 動かす時の音や引っかかり:
    • 肩を動かした時に、「ギシギシ」「ゴリゴリ」といった軋むような音や、引っかかりを感じることがあります。

これらの症状は、断裂の大きさや、どれくらいの期間が経っているかによっても異なります。
また、中には、腱板が断裂していても、全く痛みがない(無症状)ケースも存在します。

なぜ腱板は断裂するの?原因とリスク要因

腱板断裂は、主に以下の2つのタイプに分けられます。

  1. 変性断裂(非外傷性断裂): 最も一般的な原因です。腱板は、長年の使用や加齢とともに、少しずつ組織がもろくなり、弱くなっていきます。まるで使い古した布が擦り切れるように、特に大きな力がかからなくても、日常生活のちょっとした動きで断裂してしまうことがあります。40歳代以降に多く見られます。
  2. 外傷性断裂: 転倒して手や肘をついた際、肩を強く打った、重いものを無理に持ち上げたなど、明確な外力や衝撃が加わって断裂するケースです。スポーツ中の衝突や転倒でも起こり得ます。若い世代でも、このような強い外傷が原因で腱板断裂を起こすことがあります。

実際には、加齢による腱の変性があるところに、軽い外傷や使いすぎが加わって断裂する、といった複合的な原因で起こることが多いです。

その他にも、以下のようなリスク要因が考えられます。

  • 使いすぎ・オーバーユース: 野球の投球動作やテニス、水泳など、肩を繰り返し使うスポーツ選手や、腕を酷使する仕事(建設業、引っ越し業など)の方は、腱板に負担がかかりやすく、断裂のリスクが高まることがあります。
  • 骨の変形: 肩関節の近くに「骨棘(こつきょく)」と呼ばれる骨の出っ張りができ、それが腱板を擦って損傷させる場合もあります。

もしかして腱板断裂かも?と思ったら、まず受診を!

肩に痛みや動きの制限があって、「もしかしたら腱板断裂かもしれない」と感じたら、できるだけ早めに医療機関(整形外科)を受診してください。

なぜ早期の受診が大切なのでしょうか?

  • 正確な診断のため: 肩の痛みや動きの制限は、腱板断裂以外にも、「肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)」「石灰沈着性腱板炎」「頚椎(首の骨)の問題」など、様々な原因で起こることがあります。自己判断せず、医師による正確な診断を受けることが、適切な治療への第一歩です。 診断には、診察での動きの確認や、レントゲン検査、そして腱板の断裂を診断するために超音波(エコー)検査やMRI検査が行われます。
  • 適切な治療の開始: 腱板断裂と診断されれば、断裂の程度や症状、患者さんの活動性に合わせて、最適な治療法が提案されます。
  • 症状の悪化や進行の予防: 断裂を放置すると、断裂の大きさが広がったり、肩が固まって動きにくくなったり、痛みが慢性化したりすることがあります。早期に治療を開始することで、これらの悪化を防ぐことにつながります。

看護師は、受診される皆さんの不安な気持ちに寄り添い、現在の症状や困っていることについて詳しくお伺いしたり、必要な検査について分かりやすく説明したりしながら、適切な医療につながるようサポートします。

腱板断裂の治療と回復への道のり

腱板断裂の治療方法は、断裂の大きさや、患者さんの年齢、活動性、症状の程度によって様々です。
大きく分けて「保存療法」と「手術療法」があります。

1. 保存療法(手術をしない治療)

多くの腱板断裂は、まず保存療法から試されることが多いです。特に、断裂が比較的小さい場合や、高齢の方で活動量が少ない場合、痛みや機能の改善が見られる場合に選択されます。

  • 目的: 痛みを和らげること、肩の動きを改善し、筋力を維持・向上させること、そして断裂の進行を抑えること。
  • 内容:
    • 安静と生活指導: 肩に負担のかかる動作を避け、無理をしないことが大切です。
    • 薬物療法: 痛みを和らげるために、消炎鎮痛剤(飲み薬や湿布薬)が処方されます。
    • 注射療法: 肩の炎症を抑えるステロイド注射や、関節の滑りを良くするヒアルロン酸注射が、痛みの軽減や動きの改善のために行われることがあります。
    • 理学療法(リハビリテーション): 最も重要な治療の一つです。理学療法士が、お一人おひとりの状態に合わせて、肩の可動域を広げるストレッチ、残っている腱板や肩周囲の筋肉を強化する運動、姿勢の改善指導などを行います。肩の安定性を高めることで、断裂した腱への負担を減らし、機能回復を目指します。

保存療法は、数ヶ月(目安として3ヶ月から6ヶ月程度)、根気強く続けることが求められます。

2. 手術療法

保存療法で痛みが改善しない場合や、断裂が大きい、急性外傷で断裂した、活動性の高い方で早期に回復を目指したい場合などに、手術が検討されます。

  • 目的: 断裂した腱板を、上腕骨に再び縫い合わせることです。これにより、肩の安定性を高め、痛みを取り除き、機能の回復を目指します。
  • 方法: 近年では、小さな傷で行える関節鏡(かんせつきょう)手術が主流となっています。細い内視鏡(関節鏡)と手術器具を肩の小さな穴から挿入して、モニターを見ながら腱板を縫い合わせるため、体への負担が比較的少ないのが特徴です。
  • 看護師の役割: 手術を受ける患者さんの不安を和らげるための術前説明、術後の痛み管理(点滴や内服薬の管理)、手術部位の観察(出血や感染の有無)、固定装具の装着指導、そして術後の早い段階からのリハビリテーションへの移行支援や、退院後の生活指導(日常生活の注意点、通院・リハビリ継続の重要性など)を行います。

リハビリテーションと日常生活の工夫

腱板断裂の治療において、手術をするかしないかにかかわらず、リハビリテーションは「治療の要(かなめ)」です。
肩の機能回復と再断裂予防のために、医師や理学療法士の指導を忠実に守り、根気強く取り組むことが非常に重要です。

  • リハビリテーション:
    • 固定期間: 手術後は、縫い合わせた腱板がしっかり治癒するように、数週間(例:4週間~6週間)肩を専用の装具で固定することが一般的です。この期間も、医師の指示のもと、軽い手や指の運動などを行うことがあります。
    • 可動域訓練: 固定期間が終わったら、硬くなった肩の関節の動きを徐々に広げていく訓練から始めます。痛みを感じない範囲で、ゆっくりと丁寧に行います。
    • 筋力強化訓練: ある程度動きが戻ってきたら、肩を安定させるための筋肉(腱板周囲筋)の筋力強化訓練に進みます。
    • 日常生活動作の練習: 最終的には、日常の様々な動作がスムーズに行えるように、繰り返し練習を重ねていきます。
  • 日常生活での工夫とセルフケア:
    • 痛い動作を避ける: 肩に負担のかかる動作や、痛みが強くなる動作は無理に続けないようにしましょう。
    • 温める・冷やすの使い分け: 慢性の痛みやこりには温める(温湿布、入浴など)と血行が良くなり楽になることがあります。炎症が強く、熱を持っている場合は冷やす(冷湿布、アイシング)と痛みが和らぎます。ご自身の症状に合わせて使い分けましょう。
    • 就寝時の工夫: 夜間痛が強い場合、痛い方の肩を下にして寝るのは避けましょう。仰向けに寝る場合は、痛い方の腕の下や脇にクッションやタオルを挟んで、肩がリラックスできる体勢を見つけると楽になることがあります。
    • 姿勢の意識: 猫背にならないように、背筋を伸ばし、肩甲骨を意識した良い姿勢を保つことも、肩への負担を減らすことにつながります。
    • 適度な運動: 全身のコンディショニングを保つために、ウォーキングなど無理のない範囲で全身運動を取り入れることも大切です。

腱板断裂について、よくあるご質問に看護師がお答えします

Q1: 腱板が断裂したら、手術しないと治りませんか?

A1: 腱板が断裂したからといって、必ずしも手術が必要なわけではありません。

断裂の大きさや程度、患者さんの年齢、普段の活動量、そして何よりも「痛みの有無や生活への影響」によって治療方針は異なります。

実際には、まず保存療法(痛み止め、注射、理学療法など)から試すことが多いです。 断裂が小さく、保存療法で痛みが改善し、日常生活に支障がないレベルにまで肩の機能が回復すれば、手術はせずに経過を見ていくこともあります。

手術は、保存療法で痛みが改善しない場合や、断裂が大きく、活発な生活を送りたい方が早期の機能回復を望む場合、あるいは急性外傷で大きく断裂した場合などに検討されます。手術は、切れた腱板を骨に縫い合わせるためのものです。医師とよく相談し、ご自身の状態や希望に合った治療法を選択することが大切です。

Q2: 痛みが引けば、もう治ったと考えて大丈夫ですか?

A2: いいえ、痛みが引いたからといって、腱板の断裂自体が治ったとは限りません。 痛みは、炎症が治まったり、体が痛みのある状態に慣れたりすることで軽減することがあります。しかし、腱板の断裂が残っていると、腕を上げる時に力が入りにくい、特定の動きで引っかかりを感じるなどの症状が残ることがあります。

痛みが引いたと自己判断して無理な動きを再開すると、断裂がさらに広がったり、肩が固まって動きにくくなったり、あるいは再び強い痛みが出たりする可能性があります。痛みが軽減しても、必ず医師の診察を続け、必要なリハビリテーションを継続することが重要です。

Q3: 腱板断裂後のリハビリはどのくらい続きますか?

A3: 腱板断裂の治療において、リハビリテーションは非常に重要なプロセスであり、期間も長く、根気が必要になります。

  • 保存療法の場合: 痛みが落ち着いて、肩の動きや筋力が回復するまで、数ヶ月(目安として3ヶ月~6ヶ月程度)リハビリを続けることが多いです。
  • 手術療法の場合: 手術後の回復はさらに慎重に進める必要があり、半年から1年、あるいはそれ以上リハビリを継続することも珍しくありません。術後の固定期間が終わった後、関節の可動域を広げる訓練から始め、徐々に筋力強化へと進んでいきます。

リハビリの期間や内容は、断裂の大きさ、手術方法、年齢、個人の回復力、そして最終的に目指す活動レベル(日常生活に戻るだけか、スポーツ復帰を目指すかなど)によって大きく異なります。理学療法士の指導を忠実に守り、焦らず段階的に進めることが、安全で確実な回復のために非常に重要です。

Q4: 夜中に肩が痛くて眠れません。どうしたら良いですか?

A4: 夜間痛は、腱板断裂で多くの方が悩まれる特徴的な症状です。寝返りなどで無意識に肩に負担がかかるため、痛みが強くなることがあります。

夜間痛を和らげるための工夫としては、以下のようなものがあります。

  • 寝る姿勢の工夫: 痛い方の肩を下にして寝るのを避けましょう。仰向けに寝る場合は、痛い方の腕の下や脇にクッションや折りたたんだタオルなどを挟んで、肩がリラックスできる体勢を見つけると楽になることがあります。
  • 枕の高さ: 肩や首に負担がかからないように、枕の高さも調整してみましょう。
  • 温める・冷やす: 寝る前に肩を温める(蒸しタオルやホットパックなど)と血行が良くなり、痛みが和らぐことがあります。炎症が強い場合は、冷やすと楽になることもあります。
  • 痛み止め: 医師に相談して、夜間も効果が持続するタイプの痛み止めを処方してもらうことも有効です。

これらの工夫を試しながら、ご自身にとって最も楽な姿勢や方法を見つけてみてください。

Q5: 再発を防ぐために日常生活で気をつけることはありますか?

A5: はい、再発や断裂の進行を防ぐために、日常生活で気をつけるべき点がいくつかあります。

  1. 無理な動作を避ける: 特に、腕を高く上げる、重いものを急に持ち上げる、引っ張るなど、肩に過度な負担がかかる動作は避けるようにしましょう。
  2. 適切な姿勢を意識する: 猫背にならないように、背筋を伸ばし、肩甲骨を意識した良い姿勢を保つことは、肩への負担を減らすことにつながります。
  3. 定期的なリハビリ・運動の継続: 医師や理学療法士に指導された肩のストレッチや筋力トレーニングを継続し、肩周りの筋肉のバランスと柔軟性を維持することが非常に重要です。
  4. 体を温める: 特に寒い時期や、体が冷えている時は筋肉が硬くなりやすいので、適度に肩を温めて血行を良くしましょう。
  5. 体重管理: 過体重は全身の関節、特に負担のかかりやすい肩に影響を与える可能性があります。適正体重を維持することも大切です。

これらを意識して日常生活を送ることで、肩への負担を減らし、再断裂のリスクを軽減することにつながります。

最後に

肩の痛みや腕が上がらないという症状は、日常生活の質を大きく低下させ、精神的にもつらいものです。
しかし、腱板断裂は、適切に診断され、根気強く治療とリハビリに取り組むことで、多くの方が痛みを改善し、肩の機能を回復させ、活動的な生活を取り戻すことができます。

もし、肩の痛みで悩んでいるのであれば、決して一人で抱え込まず、まずは医療機関を受診してください。私たち看護師も、皆さんの痛みや不安に寄り添い、回復への道をサポートしたいと思っています。

肩の健康を取り戻し、笑顔で毎日を過ごせるよう、一緒に頑張りましょう。

出典:

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