「締め付けるような痛みが波のように押し寄せ、脂汗が出るほど。痛みの間隔は徐々に短くなり、立っていられないほどになる。」
「吐き気が止まらず、何度も嘔吐してしまう。吐いても吐いても楽にならず、脱力感だけが残る。」
もしかしたら、それは腸閉塞(イレウス)かもしれません。
腸閉塞は、腸の内容物が詰まり、通過障害を起こした状態です。
放置すると、腸管壊死や腹膜炎など、命に関わる合併症を引き起こすことがあります。
この記事では、腸閉塞の原因、症状、検査、対策、そして治療法について、看護師の視点から詳しく解説します。
腸閉塞(イレウス)とは:腸の内容物が詰まり、通過障害を起こした状態
腸閉塞(イレウス)とは、何らかの原因で腸の内容物(食物、消化液、便、ガスなど)が詰まり、腸管の通過障害を起こした状態を指します。
腸閉塞(イレウス)の原因:機械的イレウスと機能的イレウスに大別
腸閉塞(イレウス)の原因は、大きく分けて以下の2つに分類されます。
- 機械的イレウス:
- 物理的に腸管が閉塞することで起こります。
- 原因としては、開腹手術後の癒着、大腸がんなどの腫瘍、腸捻転、ヘルニア、異物などが挙げられます。
- 開腹手術後の癒着は、手術後数ヶ月から数年後に起こることがあります。
- 大腸がんなどの腫瘍は、腸管の内腔を狭窄させ、閉塞を引き起こします。
- 腸捻転は、腸管がねじれることで血流が途絶え、緊急手術が必要となることが多いです。
- ヘルニアは、腸管が腹壁の隙間から脱出し、嵌頓(かんとん)することで閉塞を引き起こします。
- 異物は、特に小児や高齢者に多く、誤飲したものが腸管に詰まることがあります。
- 機能的イレウス:
- 腸管の運動機能が低下することで起こります。
- 原因としては、開腹手術後の腸管麻痺、腸管の炎症、薬剤の副作用、電解質異常などが挙げられます。
- 開腹手術後の腸管麻痺は、手術侵襲による腸管の運動機能低下が原因です。
- 腸管の炎症は、感染性腸炎や炎症性腸疾患などが原因となります。
- 薬剤の副作用は、麻薬性鎮痛薬や抗コリン薬などが原因となることがあります。
- 電解質異常は、カリウムやマグネシウムの異常などが原因となることがあります。
腸閉塞(イレウス)の症状:激しい腹痛、吐き気、嘔吐、腹部膨満など
腸閉塞(イレウス)の主な症状は、以下の通りです。
- 激しい腹痛:
- 締め付けるような痛みが波のように押し寄せ、脂汗が出るほど。痛みの間隔は徐々に短くなり、立っていられないほどになる。
- 間欠的に起こる差し込むような痛み(疝痛)が特徴です。
- 痛みの程度は、原因や重症度によって異なります。
- 吐き気・嘔吐:
- 腸の内容物が逆流することで起こります。
- 嘔吐物は、閉塞部位によって異なります。
- 閉塞部位が上部消化管に近い場合:食べたものがそのまま出てくるような嘔吐
- 閉塞部位が下部消化管に近い場合:便のような臭いのする嘔吐
- 腹部膨満:
- 腸にガスや内容物が溜まることで、お腹が張った感じがします。
- 腹部の張り方は、閉塞部位によって異なります。
- 閉塞部位が上部消化管に近い場合:上腹部が張りやすい
- 閉塞部位が下部消化管に近い場合:下腹部全体が張りやすい
- 排便・排ガス停止:
- 腸の内容物が通過できないため、便やガスが出なくなります。
- 排便・排ガス停止は、閉塞部位や程度によって異なります。
- 完全閉塞の場合:排便・排ガスが完全に停止する
- 不完全閉塞の場合:少量の便やガスが出ることがある
- その他:
- 食欲不振、脱水症状、発熱、頻脈、ショック状態などが現れることがあります。
- 重症化すると、腸管壊死や腹膜炎を引き起こし、命に関わることがあります。
腸閉塞(イレウス)の検査:腹部X線検査、CT検査、血液検査など
腸閉塞(イレウス)の検査は、以下の方法で行われます。
- 腹部X線検査:
- 腸管の拡張やガスの貯留などを確認します。
- 腸閉塞の診断に有用な検査です。
- 検査費用は、保険適用で3割負担の場合、1,000円~3,000円程度です。
- CT検査:
- 腸管の状態を詳細に観察し、閉塞の原因や部位を特定します。
- 重症度や合併症の評価にも役立ちます。
- 造影剤を使用することで、腸管の血流状態も確認できます。
- 検査費用は、保険適用で3割負担の場合、5,000円~10,000円程度です。
- 血液検査:
- 炎症反応や脱水症状の程度などを確認します。
- 電解質バランスの評価も行います。
- 検査費用は、保険適用で3割負担の場合、2,000円~5,000円程度です。
- その他:
- 腹部超音波検査:腸管の蠕動運動や腹水の有無などを確認します。
- 注腸造影検査:大腸内に造影剤を注入し、X線撮影を行います。
- 内視鏡検査:大腸内視鏡や小腸内視鏡を用いて、腸管内を直接観察します。
腸閉塞(イレウス)の治療:原因や重症度によって異なる
腸閉塞(イレウス)の治療は、原因や重症度によって異なります。
- 保存的治療:
- 軽度のイレウスや機能的イレウスの場合に行われます。
- 絶飲食、輸液療法、胃管・イレウス管による減圧などを行います。
- 絶飲食:腸管を安静にするため、食事や水分摂取を控えます。
- 輸液療法:脱水や電解質異常を改善するために、点滴を行います。
- 胃管・イレウス管による減圧:鼻から胃や腸に管を挿入し、内容物やガスを吸引します。
- 原因疾患の治療も並行して行います。
- 腸管の炎症が原因の場合:抗生物質や抗炎症薬を使用します。
- 薬剤の副作用が原因の場合:原因薬剤の中止や変更を行います。
- 電解質異常が原因の場合:電解質補正を行います。
- 手術:
- 絞扼性イレウスや保存的治療で改善しない場合に行われます。
- 腸管の癒着剥離、腫瘍切除、腸管切除、腸管吻合などを行います。
- 腸管の癒着剥離:癒着している腸管を剥離します。
- 腫瘍切除:腫瘍を切除します。
- 腸管切除:壊死した腸管や閉塞している腸管を切除します。
- 腸管吻合:切除した腸管をつなぎ合わせます。
- 緊急手術が必要となることもあります。
- 腸捻転や腸管壊死の場合:緊急手術で腸管の血流を回復させる必要があります。
- 腸管穿孔の場合:緊急手術で腹腔内を洗浄し、腸管を修復する必要があります。
- 手術費用は、手術内容や入院期間によって異なりますが、保険適用で3割負担の場合、20万円~50万円程度です。
腸閉塞(イレウス)に関するQ&A
Q:腸閉塞(イレウス)は、自然に治りますか?
A:軽度のイレウスや機能的イレウスの場合、自然に治ることもあります。
しかし、機械的イレウスや重症化したイレウスは、自然治癒が難しく、治療が必要となります。
自己判断せずに、医療機関を受診しましょう。
Q:腸閉塞(イレウス)の治療期間はどのくらいですか?
A:腸閉塞(イレウス)の治療期間は、原因や重症度によって異なります。
保存的治療の場合は、数日から1週間程度で改善することが多いです。
手術が必要な場合は、入院期間を含め、2週間以上かかることがあります。
Q:腸閉塞(イレウス)の人は、日常生活でどのようなことに注意すれば良いですか?
A:腸閉塞(イレウス)の人は、以下のことに注意しましょう。
- 消化の良い食事を心がけ、食物繊維の多いものは避けましょう。
- 消化の良い食品:おかゆ、うどん、白身魚、鶏肉のささみなど
- 食物繊維の多い食品:ごぼう、きのこ、海藻、豆類など
- 水分をこまめに摂取し、脱水症状にならないようにしましょう。
- 水分摂取量の目安:1日1.5リットル~2リットル
- 腹痛や吐き気などの症状が現れたら、早めに医療機関を受診しましょう。
- 手術後は、医師や看護師の指示に従い、リハビリテーションを行いましょう。
- リハビリテーション:早期離床、呼吸訓練、腹筋運動など
看護師として伝えたいこと:早期発見・早期治療が大切
腸閉塞(イレウス)は、早期に発見し、適切な治療を行うことで、重症化を防ぐことができます。
「ただの便秘だろう」と軽く考えず、気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
腸閉塞(イレウス)と向き合い、健康な生活を取り戻しましょう。
出典