「午後になると、体が鉛のように重く、何もする気が起きない。」
「最近、お腹周りがぽっこりしてきた。」
「健康診断で肝機能の数値が高いと言われた。」
もしかしたら、それは非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のサインかもしれません。
NASHは、お酒を飲まない人でも発症する肝臓の病気で、放置すると肝硬変や肝がんといった重篤な病気に進行することがあります。
この記事では、NASHの危険なサインと最新対策について、看護師の視点から詳しく解説します。
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)とは:お酒を飲まない人の脂肪肝
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)とは、お酒をほとんど飲まない人や、飲んでも少量の人に起こる脂肪肝の一種です。
肝臓に脂肪が溜まるだけでなく、炎症や線維化(肝臓が硬くなること)が起こり、進行すると肝硬変や肝がんになる可能性があります。
NASHの症状:初期は無症状、進行すると倦怠感や腹部の不快感など
NASHは、初期の段階ではほとんど症状が現れません。
そのため、健康診断などで偶然発見されることが多いです。
進行すると、以下のような症状が現れることがあります。
- 倦怠感:
- 午後になると、体が鉛のように重く、何もする気が起きない。
- 朝起きても疲れが取れない。
- 少し動いただけでも息切れする。
- 食欲不振:
- 食欲がなく、体重が減る。
- 吐き気や嘔吐がある。
- 食後に腹痛や下痢がある。
- 腹部の不快感:
- お腹が張る。
- 右上腹部に鈍い痛みがある。
- 便秘や下痢を繰り返す。
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる):
- 皮膚がかゆい。
- 尿の色が濃くなる。
- 白目が黄色くなる。
- むくみ:
- 足や顔がむくむ。
- 朝起きると顔がパンパンに腫れている。
- 腹水(お腹に水が溜まる):
- お腹が異常に大きくなる。
- 息苦しい。
- 食欲がない。
これらの症状は、他の肝臓の病気と共通するものも多く、NASH特有の症状というものはありません。
NASHの原因:生活習慣病、肥満、糖尿病などがリスクを高める
NASHの主な原因は、まだ完全には解明されていませんが、以下の要因が関係していると考えられています。
- 生活習慣病:
- 肥満:内臓脂肪が多いと、肝臓に脂肪が溜まりやすくなります。
- 糖尿病:インスリン抵抗性が高まると、肝臓に脂肪が蓄積しやすくなります。
- 脂質異常症:中性脂肪やコレステロールが高いと、肝臓に負担がかかります。
- 高血圧:高血圧は、肝臓の血流を悪化させ、NASHのリスクを高めます。
- 食生活の乱れ:
- 高カロリー食:カロリーオーバーは、肝臓に脂肪を蓄積させます。
- 高脂肪食:飽和脂肪酸やトランス脂肪酸は、肝臓に負担をかけます。
- 果糖の過剰摂取:果糖は、肝臓で中性脂肪に変わりやすいです。
- 運動不足:
- 運動不足は、内臓脂肪を増やし、インスリン抵抗性を高めます。
- 遺伝的要因:
- 特定の遺伝子変異が、NASHの発症に関与している可能性があります。
- 薬剤の副作用:
- ステロイド薬や抗がん剤など、一部の薬剤は、肝臓に負担をかけ、NASHのリスクを高めます。
これらの要因が複雑に関与して、NASHを発症すると考えられています。
NASHの診断方法:血液検査、画像検査、肝生検など
NASHの診断には、以下の検査が行われます。
- 血液検査:
- 肝機能検査(ALT、AST、γ-GTPなど):肝臓の炎症や機能の状態を調べます。
- 血糖値:糖尿病の有無や程度を調べます。
- 脂質:脂質異常症の有無や程度を調べます。
- 肝線維化マーカー:肝臓の線維化の程度を調べます。
- 画像検査:
- 腹部超音波検査:肝臓の脂肪の蓄積や炎症、線維化の状態を調べます。
- CT検査:肝臓の脂肪の蓄積や腫瘍の有無などを調べます。
- MRI検査:肝臓の脂肪の蓄積や線維化の程度を詳しく調べます。
- MRIエラストグラフィー:肝臓の硬さを測定し、線維化の程度を調べます。
- 肝生検:
- 肝臓の組織を採取して顕微鏡で調べる検査です。
- 確定診断に必要です。
- 肝臓の炎症や線維化の程度を詳しく調べます。
これらの検査結果を総合的に判断して、NASHと診断されます。
NASHの治療法:生活習慣の改善が基本、薬物療法も
NASHの治療は、生活習慣の改善が基本となります。
- 食事療法:
- バランスの取れた食事:炭水化物、タンパク質、脂質をバランスよく摂りましょう。
- 摂取カロリーの制限:体重を減らすために、摂取カロリーを制限しましょう。
- 糖質、脂質の制限:糖質や脂質の摂りすぎに注意しましょう。
- 地中海食:野菜、果物、魚介類、オリーブオイルなどを中心とした食事は、NASHの改善に効果があると言われています。
- 具体的なメニュー例:和定食、魚料理、野菜スープ、サラダなど。
- レシピ:NASH患者さん向けのレシピ本やWebサイトを参考にしましょう。
- 外食時の注意点:揚げ物や高カロリーなメニューは避け、野菜や魚介類を選びましょう。
- 運動療法:
- 有酸素運動:ウォーキング、ジョギング、水泳など、週に150分程度行いましょう。
- 筋力トレーニング:週に2回程度行いましょう。
- 運動強度の目安:軽く息が上がる程度の運動をしましょう。
- 運動時間の目安:1回30分以上行いましょう。
- 体重管理:
- 適正体重の維持:BMI(体格指数)25未満を目指しましょう。
- 体重減少の目安:1ヶ月に1~2kg程度の減量を目指しましょう。
- 急激な体重減少は、NASHを悪化させる可能性があります。
- 薬物療法:
- ビタミンE:肝臓の炎症を抑える効果が期待されています。
- インスリン抵抗性改善薬:インスリンの働きを改善し、肝臓の脂肪の蓄積を抑えます。
- メトホルミン、ピオグリタゾンなど。
- 肝保護薬:肝臓の機能を改善し、線維化を抑える効果が期待されています。
- ウルソデオキシコール酸、グリチルリチン酸など。
- その他:GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬など、NASHの改善に効果が期待される新しい薬も開発されています。
これらの治療法を組み合わせることで、NASHの進行を抑え、改善を目指します。
NASHの予防法:生活習慣の改善が重要
NASHの予防には、以下の生活習慣を心がけることが重要です。
- バランスの取れた食事:
- 炭水化物、タンパク質、脂質をバランスよく摂りましょう。
- 野菜、果物、食物繊維を積極的に摂りましょう。
- 揚げ物や高カロリーな食品は控えましょう。
- 甘い飲み物や果物の摂りすぎに注意しましょう。
- 地中海食を参考に、魚介類やオリーブオイルを積極的に摂りましょう。
- 適度な運動:
- 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳など)を週に150分程度行いましょう。
- 筋力トレーニングを週に2回程度行いましょう。
- 運動強度は、軽く息が上がる程度を目安にしましょう。
- 運動時間は、1回30分以上を目安にしましょう。
- 適正体重の維持:
- BMI(体格指数)25未満を目指しましょう。
- 1ヶ月に1~2kg程度の減量を目指しましょう。
- 急激な体重減少は、NASHを悪化させる可能性があります。
- 禁煙:
- 喫煙は、NASHのリスクを高める可能性があります。
- 節酒:
- 過度の飲酒は、肝臓に負担をかけ、NASHのリスクを高める可能性があります。
- ストレスの軽減:
- ストレスは、NASHを悪化させる可能性があります。
- 十分な睡眠や休息をとり、ストレスを溜め込まないようにしましょう。
- 十分な睡眠:
- 睡眠不足は、NASHのリスクを高める可能性があります。
- 1日7~8時間の睡眠時間を確保しましょう。
これらの生活習慣を改善することで、NASHの発症リスクを下げることができます。
NASHに関するQ&A
Q:NASHは、放置するとどうなりますか?
A:NASHを放置すると、肝硬変や肝がんといった重篤な病気に進行することがあります。
肝硬変になると、肝臓の機能が低下し、黄疸や腹水などの症状が現れます。
肝がんになると、命に関わることもあります。
Q:NASHは、治りますか?
A:NASHは、早期に発見し、適切な治療を行えば、改善する可能性があります。
しかし、進行すると、完治は難しくなります。
根気強く治療を続けることが大切です。
Q:NASHの治療期間は、どのくらいかかりますか?
A:NASHの治療期間は、病気の進行度や生活習慣の改善度合いによって異なります。
生活習慣の改善を継続することで、数ヶ月から数年かけて肝機能が改善することがあります。
薬物療法を行う場合は、さらに治療期間が長くなることがあります。
Q:NASHの治療費は、どのくらいかかりますか?
A:NASHの治療費は、治療法や医療機関によって異なります。
生活習慣の改善だけの場合は、比較的費用はかかりません。
薬物療法を行う場合は、薬代や診察料がかかります。
肝生検を行う場合は、入院費や検査費用がかかります。
医療費助成制度を利用できる場合もありますので、医療機関や自治体にご相談ください。
Q:NASHの予防法はありますか?
A:NASHの予防には、生活習慣の改善が重要です。
バランスの取れた食事、適度な運動、適正体重の維持、禁煙、節酒、ストレスの軽減、十分な睡眠を心がけましょう。
Q:NASHの相談は、何科に行けば良いですか?
A:NASHの相談は、消化器内科や肝臓内科で受け付けています。
看護師として伝えたいこと:早期発見・早期治療が大切です
NASHは、初期にはほとんど症状が現れません。
しかし、放置すると重篤な病気に進行することがあります。
定期的な健康診断を受け、早期発見・早期治療を心がけましょう。
NASHと向き合い、健康な毎日を取り戻しましょう。
出典
- 肝炎情報センター 非アルコール性脂肪性肝疾患:https://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/shibousei.html
- 厚生労働省 アルコール性肝炎と非アルコール性脂肪性肝炎:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-011.html