「最近、母の物忘れが酷くなってきた…」
「父の行動が以前と違うような…」
もしかして、それは認知症のサインかもしれません。
認知症は、誰にでも起こりうる脳の病気であり、早期発見と適切なケアが大切です。
この記事では、認知症の原因、症状、検査、治療法、そして予防策について、看護師の視点から詳しく解説します。
認知症とは:脳の機能が低下し、日常生活に支障が出る病気
認知症とは、様々な原因によって脳の機能が低下し、記憶力、判断力、理解力などが徐々に失われていく病気です。
認知症になると、日常生活に支障が出たり、人格が変わったように見えたりすることがあります。
認知症の症状:記憶障害、見当識障害、実行機能障害、その他
認知症の主な症状は、以下のとおりです。
- 記憶障害: 物事を覚えられない、忘れてしまう(例:直前に食べた食事の内容を忘れる、何度も同じことを聞く、約束を忘れる)
- 見当識障害: 時間、場所、人などが分からなくなる(例:今日が何日か分からない、今いる場所が分からない、家族の名前を忘れる)
- 実行機能障害: 計画を立てて、順序通りに行うことができなくなる(例:料理の手順が分からなくなる、着替えがうまくできなくなる、買い物ができなくなる)
- 失語・失行・失認:
- 失語: 言葉が出てこない、人の言葉が理解できない
- 失行: 道具の使い方が分からなくなる
- 失認: 見たもの、聞いたものが分からなくなる
- その他:
- 性格の変化(怒りっぽくなる、不安になる、無関心になる、抑うつ状態になる)
- 徘徊
- 幻覚
- 妄想
- 睡眠障害
- 食行動の変化
認知症の原因:アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、その他
認知症の原因は、様々ですが、主なものとしては以下のものが挙げられます。
- アルツハイマー病: 脳内に特殊なたんぱく質(アミロイドβ、タウたんぱく)が蓄積し、神経細胞が徐々に破壊される病気
- 血管性認知症: 脳梗塞や脳出血などによって、脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こる認知症
- レビー小体型認知症: 脳内にレビー小体という特殊なたんぱく質が蓄積し、神経細胞が変性する病気
- その他: 前頭側頭型認知症、ピック病、パーキンソン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、正常圧水頭症など
認知症の検査:問診、神経心理学検査、画像検査、血液検査
認知症の診断には、以下の検査が行われます。
- 問診: 症状、発症時期、既往歴、家族歴、生活習慣などを詳しくお伺いします。
- 神経心理学検査: 記憶力、判断力、理解力などを評価する検査(例:MMSE、HDS-R、MoCA)
- 画像検査: CT検査やMRI検査を行い、脳の状態を調べます。(例:脳の萎縮の程度、脳血管の状態)
- 血液検査: 認知症の原因となる疾患を調べるために行われます。(例:甲状腺機能検査、ビタミンB12検査、梅毒検査)
認知症の治療:薬物療法、非薬物療法
認知症の治療は、症状の進行を遅らせ、生活の質を維持することを目的として行われます。
- 薬物療法: 認知症の症状を緩和する薬(認知症治療薬)を使用します。
- コリンエステラーゼ阻害薬: アセチルコリンという神経伝達物質の分解を抑制し、脳の機能を高める薬(例:アリセプト、レミニール、イクセロン、リバスタッチ)
- NMDA受容体拮抗薬: グルタミン酸という神経伝達物質の働きを調整し、脳の機能を高める薬(例:メマリー)
- 非薬物療法:
- 環境調整: 認知症の方が安心して生活できる環境を整えます。(例:家の中の段差をなくす、照明を明るくする)
- 回想法: 過去の楽しい思い出を語り合うことで、精神的な安定を図ります。
- 音楽療法: 音楽を聴いたり、歌ったりすることで、気分転換やコミュニケーションを促します。
- 作業療法: 日常生活動作の練習や、趣味活動を通して、残された機能を維持します。
- リハビリテーション: 運動やストレッチなどを行い、身体機能の維持を図ります。
- 家族介護者への支援: 認知症の方を介護する家族への情報提供や相談支援を行います。
認知症の予防:生活習慣の改善、脳トレ、社会参加、その他
認知症を予防するためには、以下の点が重要です。
- 生活習慣の改善:
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- 禁煙
- 節酒
- 十分な睡眠
- 脳トレ:
- 読書
- 計算
- パズル
- ゲーム
- 手芸
- 絵画
- 社会参加:
- 地域活動への参加
- 趣味活動
- 友人との交流
- ボランティア活動
- その他:
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の予防と管理
- 肥満の解消
- ストレスの軽減
認知症に関するQ&A
Q:認知症の予防法は?
A: 認知症を予防するためには、
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- 禁煙
- 節酒
- 十分な睡眠
- 脳トレ
- 社会参加
などが大切です。
特に、生活習慣病の予防と管理は、認知症予防に非常に重要です。
高血圧、糖尿病、脂質異常症などは、動脈硬化を引き起こし、血管性認知症のリスクを高めます。
また、肥満も認知症のリスクを高めることが知られています。
適度な運動は、脳の活性化を促し、認知機能の低下を予防する効果があります。
さらに、社会参加は、人との交流を通して脳を刺激し、認知機能の維持に役立ちます。
Q:認知症の介護は大変ですか?
A: 認知症の介護は、決して楽ではありません。
認知症の方は、記憶障害や見当識障害などにより、日常生活に支障をきたすことがあります。
また、性格が変わったように見えたり、徘徊したりすることもあります。
しかし、認知症の方も、私たちと同じように感情を持っています。
優しく寄り添い、 dignity(尊厳)を尊重した介護を心がけることが大切です。
介護する側も、心身ともに負担が大きいため、無理せず、周りの人に頼ったり、介護サービスを利用したりすることも検討しましょう。
Q:認知症の相談窓口はありますか?
A: 各自治体や、地域包括支援センターなどで、認知症に関する相談窓口を設けています。
また、認知症介護家族の会などの団体もあります。
これらの窓口では、認知症に関する情報提供や、介護相談、精神的なサポートなどを受けることができます。
看護師として伝えたいこと:認知症と向き合い、共に支え合う
認知症と診断された方や、そのご家族は、大きな不安や戸惑いを感じることと思います。
「これからどうなるのだろうか…」
「介護は大変だろうか…」
そんな心配や不安を抱えているかもしれません。
認知症は、誰にでもなりうる病気であり、決して特別なことではありません。
大切なことは、認知症と向き合い、共に支え合っていくことです。
認知症の方も、私たちと同じように、喜びや悲しみを感じ、日々を生きています。
その人らしさを尊重し、 dignity を守りながら、穏やかな生活を送れるように、周りの人々が支えていくことが大切です。
家族の絆は、何よりも強い力となりますが、認知症の方を介護するご家族は、心身ともに大きな負担を抱えているかもしれません。
認知症は、決して一人で抱え込む病気ではありません。
周りの人々に頼りながら、共に認知症と向き合っていくことが大切です。
出典
- 厚生労働省 認知症施策:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
- 国立長寿医療研究センター もの忘れ:https://www.ncgg.go.jp/hospital/monowasure/
- 認知症介護情報ネットワーク:https://www.dcnet.gr.jp/