「最近、夜中に何度もトイレに起きるようになった」
「尿の出が悪くなった気がする」
「残尿感があってすっきりしない」と感じることはありませんか?
それは、前立腺肥大症のサインかもしれません。
前立腺肥大症は、50歳以上の男性に多く見られる病気で、加齢とともに前立腺が肥大し、排尿に関する様々な症状を引き起こします。
日本では、80歳以上の男性の約80%が前立腺肥大の症状を抱えていると言われています。
この記事では、前立腺肥大症とはどのような病気なのか、その原因、症状、検査方法、最新の治療法、そして日常生活で気を付けることについて、最新の情報に基づき、わかりやすく徹底的に解説します。
前立腺肥大症とは:前立腺の肥大により排尿が困難になる病気
前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)とは、男性特有の臓器である前立腺が肥大することにより、尿道が圧迫され、排尿に関する様々な症状を引き起こす病気です。
前立腺は膀胱の出口にあるクルミほどの大きさの臓器で、尿道を取り囲むように位置しています。
加齢とともに前立腺の内側の組織(尿道周囲腺)が増殖し、尿道を狭くすることで、排尿困難などの症状が現れます。
前立腺肥大症の症状:排尿の回数や勢いの変化に注意
前立腺肥大症の主な症状は、以下のとおりです。これらの症状はまとめてLUTS(Lower Urinary Tract Symptoms:下部尿路症状)と呼ばれます。前立腺肥大症に伴うLUTSは、大きく分けて「排尿症状」と「蓄尿症状」に分類できます。
排尿症状(尿を出すときの症状)
- 排尿困難: 尿の勢いが弱くなる(尿勢低下、尿線細小)、尿が出るまでに時間がかかる(排尿遅延)、腹部に力を入れないと尿が出にくい(腹圧排尿)、排尿中に尿が途切れる(尿中断)、尿の終わりが悪く、尿がポタポタと垂れる(排尿後滴下)など、排尿に時間がかかる、または困難を感じる状態を指します。
蓄尿症状(尿をためる時の症状)
- 頻尿: 排尿の回数が増える状態。日中の頻尿に加え、夜間に何度もトイレに起きる夜間頻尿は、睡眠不足につながり、生活の質を大きく低下させることもあります。
- 尿意切迫感: 急に強い尿意を感じ、我慢するのが難しい状態。急いでトイレに行っても間に合わず、切迫性尿失禁(尿を漏らしてしまうこと)につながることもあります。
- 尿失禁: 尿を我慢できずに漏らしてしまう状態。前述の尿意切迫感に伴う切迫性尿失禁のほか、膀胱に尿が溜まりすぎて溢れてしまう溢流性尿失禁も前立腺肥大症でみられることがあります。
その他の症状
- 残尿感: 排尿後も尿が残っている感じがする状態。残尿が多い状態が続くと、尿路感染症のリスクが高まります。
- 尿閉: 尿が全く出なくなる状態。これは緊急性の高い状態であり、すぐに医療機関を受診する必要があります。
これらの症状は、前立腺の肥大の程度によって異なり、複数の症状が同時に現れることもあります。
また、症状の程度と前立腺の大きさは必ずしも一致しません。
前立腺肥大症の原因:加齢と男性ホルモンが関係
前立腺肥大症の明確な原因はまだ完全に解明されていませんが、加齢と男性ホルモン(テストステロン)の関与が深く関係していると考えられています。
- 加齢: 前立腺は、通常50歳前後で成長がほぼ止まりますが、50歳を過ぎると再び大きくなることがあります。加齢に伴い、男性ホルモンのバランスが変化し、前立腺の細胞増殖を促す物質が増加することが原因の一つと考えられています。
- 男性ホルモン: 男性ホルモン(テストステロン)が前立腺の成長に影響を与えていると考えられています。テストステロンは、5α還元酵素という酵素によってジヒドロテストステロン(DHT)という物質に変換されますが、このDHTが前立腺の肥大に関与していると考えられています。
65歳以上の男性の多くに前立腺の肥大が見られますが、全員に症状が現れるわけではありません。
症状の有無や程度には個人差があります。
前立腺肥大症の検査:問診、尿検査、直腸診など
前立腺肥大症の診断には、以下の検査が行われます。
- 問診: 排尿の状態や症状について詳しく問診を行います。いつから、どのような症状があるのか、生活にどの程度支障が出ているかなどを確認します。
- 尿検査: 尿路感染症、血尿、尿糖などの有無を確認します。
- 直腸診: 肛門から指を入れて前立腺の状態(大きさ、硬さ、表面の凹凸など)を触診します。前立腺がんの診断にも重要な検査です。
- 超音波検査: 超音波を用いて前立腺の大きさや膀胱の状態(残尿量など)を確認します。
- 尿流量測定: 排尿の勢いや量を測定します。客観的に排尿の状態を評価することができます。
- PSA検査(前立腺特異抗原検査): 血液検査でPSA値を測定し、前立腺がんとの鑑別を行います。PSA値が高い場合は、前立腺がんの可能性を考慮し、追加の検査が必要となることがあります。
前立腺肥大症の治療:薬物療法、手術療法、その他の治療法
前立腺肥大症の治療には、薬物療法、手術療法、その他の治療法があります。
薬物療法
症状が軽い場合は、薬物療法が選択されます。
- α1遮断薬: 前立腺や尿道の筋肉(平滑筋)を弛緩させ、尿道を広げることで排尿をスムーズにします。比較的速効性があり、服用後すぐに効果を実感できることが多いです。
- 5α還元酵素阻害薬: 男性ホルモン(テストステロン)をジヒドロテストステロン(DHT)に変換する酵素(5α還元酵素)の働きを抑え、前立腺を縮小させる効果があります。効果が現れるまでに数ヶ月かかることがあります。
- PDE5阻害薬: 尿道や膀胱の筋肉を弛緩させる作用があり、排尿症状の改善に効果があります。勃起不全(ED)の治療薬としても使用されています。
- 植物製剤: 植物由来の成分(ノコギリヤシエキスなど)を含む薬で、排尿症状の改善に効果があるとされています。
手術療法
薬物療法で十分な効果が得られない場合や、症状が重い場合、合併症(尿路感染症の繰り返し、尿閉、膀胱結石、腎機能障害など)がある場合などに手術療法が検討されます。
- 経尿道的前立腺切除術(TUR-P): 尿道から内視鏡を挿入し、電気メスで肥大した前立腺組織を切除する方法。従来から広く行われている手術法です。比較的短時間で手術が可能ですが、出血や感染などのリスクもあります。術後は数日間カテーテルを留置する必要があります。入院期間は通常1週間程度です。
- 経尿道的レーザー前立腺核出術(HoLEP): レーザーを用いて肥大した前立腺組織を核出(くり抜く)する方法。出血が少なく、回復が早いというメリットがあります。近年、TUR-Pに代わって主流になりつつある手術法です。
- 経尿道的レーザー前立腺蒸散術(PVP、グリーンライトレーザーなど): レーザーを用いて前立腺組織を蒸散させる方法。出血が少ないというメリットがあります。
その他の治療法
- 温熱療法(TUMT): マイクロ波や高周波を用いて前立腺を加温し、組織を壊死させる方法。
- 前立腺動脈塞栓術(PAE): カテーテルを用いて前立腺に栄養を送る動脈を塞栓し、前立腺を縮小させる方法。
治療法は、前立腺の大きさ、症状の程度、患者さんの年齢や全身状態、合併症の有無などを考慮して、泌尿器科医と相談の上で決定します。
前立腺肥大症の予防と日常生活の注意点
前立腺肥大症を完全に予防することは難しいですが、生活習慣の見直しによって症状の進行を遅らせたり、予防効果が期待できます。
- バランスの取れた食事: バランスの良い食事を心がけ、特に野菜や果物を積極的に摂るようにしましょう。抗酸化作用のあるリコピン(トマトなどに含まれる)や、前立腺の健康維持に役立つとされる亜鉛(牡蠣などに含まれる)を意識して摂取するのも良いでしょう。高脂肪食は前立腺肥大のリスクを高めるとされているため、控えめにするのが望ましいです。
- 適度な運動: 適度な運動は、全身の血行を促進し、前立腺の健康維持にも役立ちます。ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動や、骨盤底筋を鍛える運動などが推奨されます。長時間の座位は前立腺への負担となるため、適度に休憩を挟み、体を動かすようにしましょう。
- 規則正しい生活: 十分な睡眠をとり、ストレスを溜めないように心がけましょう。ストレスは自律神経のバランスを崩し、排尿症状を悪化させる可能性があります。
- 長時間の座りっぱなしを避ける: 長時間座りっぱなしの状態は、前立腺への負担となります。適度に休憩を挟み、体を動かすようにしましょう。デスクワークの方は、こまめに立ち上がって軽いストレッチなどを行うと良いでしょう。
- 水分を摂りすぎない: 水分の摂りすぎは、夜間頻尿の原因となることがあります。特に就寝前の水分摂取は控えめにしましょう。ただし、脱水にならないように、日中はこまめに水分補給をすることが大切です。
- アルコールやカフェインの摂りすぎに注意: アルコールやカフェインは、膀胱を刺激し、排尿を促進する作用があるため、摂りすぎると頻尿や尿意切迫感などの症状を悪化させる可能性があります。適量を心がけましょう。特に夕食後の摂取は控えるのが望ましいです。
- 便秘を避ける: 便秘は腹圧を上昇させ、排尿に影響を与える可能性があります。食物繊維を多く含む食事を摂る、適度な運動をするなど、便秘にならないように心がけましょう。
- 体を冷やさない: 下半身の冷えは、前立腺の血行を悪くし、症状を悪化させる可能性があります。体を温める服装を心がけ、冷房などで体を冷やしすぎないように注意しましょう。入浴などで体を温めるのも効果的です。
- 薬の服用に注意: 風邪薬や鼻炎薬など、市販薬の中には排尿を抑制する成分が含まれているものがあります。前立腺肥大症の症状がある方は、薬を服用する前に医師または薬剤師に相談するようにしましょう。
前立腺肥大症は、高齢の男性に多く見られる病気ですが、適切な治療を受けることで症状を改善し、快適な生活を送ることができます。
排尿に関する気になる症状(例えば、排尿困難、頻尿、残尿感、尿意切迫感など)があれば、自己判断せずに早めに泌尿器科を受診し、医師に相談するようにしましょう。
早期の診断と適切な治療が、症状の進行を抑え、生活の質を維持するために重要です。
出典
- 日本泌尿器科学会:https://www.urol.or.jp/