肩が「外れた!」激痛…肩関節脱臼のサイン・すぐやるべきこと・回復と再発予防【看護師監修】

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スポーツをしている時、あるいは転んで手をついた時など、突然の「バキッ」「ゴリッ」といった嫌な音や感覚とともに、肩にこれまでにないほどの激しい痛みが走り、腕が全く動かせなくなってしまった…

それは、「肩関節脱臼(かたかんせつだっきゅう)」かもしれません。

肩関節脱臼は、全身の関節の中でも最も頻繁に起こる脱臼の一つです。
強い痛みを伴い、見て分かるような変形を伴うことも多いため、ケガをされたご本人はもちろん、周りの方もパニックになってしまうことがあります。

しかし、肩関節脱臼は、ケガをした直後の対応と、その後の適切な治療、そしてリハビリテーションが非常に重要になります。

この記事では、看護師の視点から、肩関節脱臼がどのようなケガなのか、脱臼した時のサイン、そして「もしも」の時にすぐに取るべき行動、病院での対応、回復と再発予防のために大切なことについて、分かりやすくお伝えします。

肩関節脱臼って、どんなケガ?

肩の関節は、上腕骨(二の腕の骨)の丸い頭(骨頭)と、肩甲骨にある浅いくぼみ(関節窩)でできています。
この関節は、腕を大きく動かすことができるように、構造上比較的浅く、骨だけでは不安定なため、周囲の靭帯や筋肉、関節を覆う袋(関節包)などによって支えられています。

肩関節脱臼とは、この上腕骨の丸い頭が、肩甲骨の受け皿である関節窩から完全に外れてしまった状態を指します。

脱臼する方向によって種類があり、前に外れる前方脱臼が最も多く(約9割)、次に下に外れる下方脱臼、後ろに外れる後方脱臼などがあります。どの方向に外れたかによって、腕の形や痛み方が少し変わってきます。

「外れた!」に気づくサインと症状

肩関節が脱臼した瞬間、多くの場合、以下のような非常に分かりやすいサインと症状が現れます。

  • 激しい、耐えがたいほどの痛み: ケガをした直後から、非常に強い痛みが肩全体に走ります。
  • 腕が動かせない: あまりの痛みに、自分の力で腕を動かすことが全くできなくなります。特に、肩を上げたり回したりする動作は不可能になります。
  • 見た目の変化、変形: 肩の形が普段と明らかに違って見えます。例えば、肩の丸みがなくなり、角張って見える、肩の関節のあたりがへこんでいるように見えるなど、変形が目で見て分かることがあります。
  • 不自然な腕の形: 腕を体から少し離した、だらりと垂れ下がったような、特定の不自然な位置で固定されてしまい、自分では動かせない状態になります。
  • 触ると分かる異常: 肩の関節のあたりに触れると、本来あるべき上腕骨の丸い頭がないような、へこみを感じることがあります。
  • しびれや感覚の異常: 脱臼した骨頭が近くを通る神経を圧迫することで、指先や腕にかけてビリビリとしたしびれを感じたり、触っても感覚が鈍くなったりすることがあります。
  • ケガをした瞬間の音や感覚: 骨が外れる時に、「ゴリッ」「ボコッ」といった嫌な音や、関節がずれるような感覚を覚えることがあります。

これらのサインが現れたら、「肩が外れたかもしれない」と強く疑い、次にお伝えする行動をすぐに取ることが非常に重要です。

どうして起こるの?原因となる状況

肩関節脱臼のほとんどは、関節に強い外力がかかることによって起こる「外傷性脱臼」です。

  • 転倒: 腕を伸ばしたまま地面に手をついて転倒した際、その衝撃が肩に伝わり、脱臼することが最も多い原因の一つです。特に、腕を外側に開いて後ろに反るような体勢で手をついた場合に起こりやすいです(前方脱臼の原因)。
  • スポーツ中の衝撃: ラグビーや柔道、アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツでの強い衝突、バスケットボールやバレーボールなどで腕を大きく振った際に起こるなど、様々なスポーツ中の衝撃が原因となります。
  • 交通事故: 肩や腕に直接的な衝撃を受けたり、体が強く揺さぶられたりすることで発生します。

また、まれに、生まれつき関節を支える組織が緩いなど、関節が元々外れやすい体質(非外傷性脱臼)の方もいらっしゃいます。しかし、緊急性が高いのは、強い外力によって起こる外傷性脱臼です。

ケガをしたら最優先!医療機関へ急ぎましょう

もし、ご自身や周りの人が肩関節脱臼をしたかもしれない、と思ったら、何よりも最優先で、できるだけ早く医療機関(整形外科など)を受診してください!

【絶対にやってはいけないこと!】

  • 自分で、または医療資格のない人が無理に脱臼を戻そうとすること。
    脱臼した肩を無理に引っ張ったり、回したりして戻そうとすると、神経や血管、周りの筋肉、靭帯などをさらに傷つけてしまったり、骨折を伴っている場合に骨折を悪化させてしまったりする危険性があります。これは非常に危険な行為です!

【なぜすぐに病院に行く必要があるの?】

  • 痛みのコントロール: 脱臼の痛みは非常に強いため、医療機関で適切な痛み止めを使ってもらう必要があります。
  • 安全な整復: 医師は、患者さんの状態を評価し、必要であれば痛み止めや筋肉を弛緩させる薬などを使用しながら、安全な方法で脱臼を元の状態に戻します(整復といいます)。専門家による安全な整復が非常に重要です。
  • 骨折などの合併症の確認: 脱臼の際に、骨折(上腕骨頭の陥没骨折や、肩甲骨側の剥離骨折など)や、神経・血管の損傷を伴っていることがあります。レントゲン検査などでこれらを確認し、合併症があれば同時に対応する必要があります。
  • 早期の整復がしやすい: 脱臼してから時間が経つと、周囲の筋肉が緊張して硬くなり(筋スパズム)、整復が難しくなることがあります。早期に整復した方が、患者さんの負担も少なく済むことが多いです。

救急車を呼ぶ、または速やかに近くの整形外科や救急病院に向かいましょう。

病院に着いたら、ケガをした時の状況や現在の症状を詳しく伝えてください。
看護師が、皆さんの不安な気持ちに寄り添い、必要な情報収集や、診察・処置の準備のお手伝いをします。

病院での対応と整復(脱臼をもどす)について

病院では、まず医師による診察と、脱臼の有無や骨折がないかを確認するためのレントゲン検査を行います。

脱臼していることが確認され、骨折などの合併症がなければ、「整復」を行います。
整復とは、外れてしまった上腕骨頭を、肩甲骨の関節窩に安全に戻す手技のことです。

整復を行う際は、患者さんの痛みを和らげ、筋肉の緊張を和らげるために、痛み止めの注射や、場合によっては軽い鎮静(ウトウトするような状態)を行うことがあります。
医師が様々な方法の中から、患者さんの状態に最も適した方法を選んで行います。
整復が成功すると、直後から痛みがかなり楽になり、肩の形も元に戻ります。

看護師は、整復処置の前に患者さんの不安を和らげたり、痛みの評価をしたり、医師の指示のもと薬剤の準備や投与を補助したり、整復しやすい体位を一緒に取ったりと、患者さんが少しでも楽に処置を受けられるようサポートします。
整復後は、痛みや、手足の血色・感覚などに異常がないか注意深く観察します。

整復後の固定と回復への道のり

脱臼が整復されたら、再び外れないように、そして損傷した靭帯や関節包などが治癒するのを助けるために、肩を固定します。

  • 固定: 三角巾を使ったり、よりしっかりと固定できる専用の装具(アームスリングなど)を使ったりします。固定期間は、初めての脱臼か、年齢、普段の活動レベル、合併症の有無などによって異なりますが、一般的には数週間(例えば、2週間から4週間程度)が多いです。ただし、年齢が高い方の場合は、固定期間が長すぎると肩が固まりやすい(拘縮)ことがあるため、比較的短い期間で固定を終了し、早期にリハビリを開始することもあります。医師の指示された期間、正しく固定することが大切です。
  • リハビリテーション: 固定期間が終わったら、硬くなった肩の動きを取り戻し、弱くなった筋肉を強くするためのリハビリテーション(理学療法)が非常に重要になります。専門の理学療法士が、痛みの状態や回復段階に合わせた、無理のない範囲でのストレッチや筋力トレーニングのメニューを組んでくれます。リハビリは時間がかかりますが、根気強く続けることで、肩の動きや安定性を回復させ、再脱臼のリスクを減らすために欠かせません。
  • 活動再開: リハビリが進み、肩の痛みなく、日常生活に必要な動きができるようになったら、徐々に元の仕事やスポーツ活動へと段階的に復帰していきます。焦って早い段階で無理をすると、再脱臼してしまう可能性が高まります。医師や理学療法士とよく相談しながら、慎重にステップを踏んでいきましょう。

看護師は、自宅での固定方法や、痛みの自己管理方法についてアドバイスしたり、リハビリの重要性や、自宅でできる簡単な体操について説明を補足したり、回復の経過や不安をお伺いしたりしながら、皆さんの回復をサポートします。

再発予防のために大切なこと

肩関節脱臼は、一度脱臼すると、再び脱臼しやすい「反復性脱臼(はんぷくせいだっきゅう)」になりやすいという特徴があります。特に、若くて活動性の高い方ほど、初めての脱臼の後に関節の不安定性が残りやすく、再発のリスクが高いと言われています。

つらい脱臼を繰り返さないためには、以下の点が非常に大切です。

  • 徹底したリハビリテーション: 整復後のリハビリで、単に関節の動きを戻すだけでなく、肩関節を安定させるための筋肉(特にローテーターカフと呼ばれる回旋筋腱板など)をしっかりと強化することが再発予防に繋がります。理学療法士の指導のもと、根気強く取り組みましょう。
  • 脱臼しやすい体勢に注意: 腕を大きく開いて後ろに持っていくような、肩に負担がかかる特定の動きは、再脱臼のリスクを高めるため、しばらく注意が必要です。スポーツの種類によっては、テーピングや専用のサポーターを使用することも検討できます。
  • 筋力と柔軟性の維持: 肩周りだけでなく、体全体の筋力やバランス、柔軟性を維持することも、ケガをしにくい体を作る上で大切です。
  • 再発を繰り返す場合: きちんとリハビリを行っても再脱臼を繰り返してしまう場合は、靭帯や関節唇(関節窩の縁にある軟骨)などの損傷が完全に治癒していない、あるいは不安定性が大きいことが考えられます。この場合は、損傷した組織を修復したり、関節を安定させたりするための手術(関節鏡を使った手術が一般的)が検討されることがあります。これは医師とよく相談し、再発のリスクや手術のメリット・デメリットを理解した上で検討しましょう。

よくあるご質問に看護師がお答えします

Q1: 肩が外れたかも、と思ったら、自分で戻そうとしたり、誰かに引っ張ってもらったりしても良いですか?

A1: いいえ、絶対に自分で無理に戻そうとしたり、医療資格のない方に引っ張ってもらったりしてはいけません。 先ほども述べましたが、無理な整復は、神経や血管を傷つけたり、骨折を悪化させたりする非常に危険な行為です。

肩関節脱臼は、必ず医療機関を受診し、医師に安全な方法で整復してもらう必要があります。ケガの直後から痛みが強く、動かせない状態であれば、迷わず救急車を呼ぶか、すぐに整形外科のある病院を受診してください。早く専門家に見てもらうことが、合併症を防ぎ、回復を早めるために最も大切です。

Q2: 脱臼を戻す(整復)のは痛いですか?麻酔はしますか?

A2: はい、脱臼を戻す際には、痛みを伴うことが多いです。 これは、骨が外れていることによる痛みだけでなく、筋肉が緊張して硬くなる(筋スパズム)ことでも痛みが強くなるためです。

多くの場合は、整復を行う前に、痛みを和らげ、筋肉の緊張を和らげるための痛み止めの注射を行います。痛みが非常に強い場合や、筋肉の緊張が強い場合は、処置がスムーズに行えるように鎮静剤(少しウトウトするようなお薬)を使うこともあります。

痛みの感じ方には個人差がありますが、医療スタッフは患者さんの痛みを和らげ、安全かつスムーズに処置ができるよう配慮します。痛みが不安な場合は、遠慮なく医師や看護師にその気持ちを伝えてください。

Q3: 脱臼後の固定期間はどれくらいですか?いつから動かして良いですか?

A3: 脱臼後の固定期間は、初めての脱臼か、年齢(若い方ほど再発しやすいため長めになる傾向)、ケガの程度(靭帯などの損傷が大きいか)、普段どのような活動をしているか(スポーツをするかなど)によって異なります。

一般的には、2週間~4週間程度固定することが多いですが、医師が患者さんの状態を診て決定します。固定が長すぎると肩が固まってしまう(拘縮)リスクがあるため、特に高齢の方や、早期にリハビリを開始したい方など、個別の状況に合わせて固定期間は調整されます。

固定期間が終わったら、いきなり自由に動かすのではなく、医師や理学療法士の指導のもと、段階的に動き始めます。 最初はごく軽い振り子運動などから始め、徐々に動かせる範囲を広げ、抵抗をかけた運動へと進んでいきます。いつからどの程度動かして良いかについては、必ず医療スタッフの指示に従ってください。

Q4: 一度肩を脱臼すると、癖になって繰り返しやすくなりますか?

A4: はい、残念ながら、肩関節脱臼は一度起こすと、再び脱臼しやすい「反復性脱臼」になりやすいという特徴があります。特に、初めて脱臼した時の年齢が若い方(10代~20代)ほど、再発のリスクが高い傾向があります。

これは、初めての脱臼の際に、関節を安定させている靭帯や関節を覆う袋(関節包)、関節窩の縁にある軟骨(関節唇)などが損傷を受け、関節の安定性が低下してしまうためです。

反復性脱臼を予防するためには、整復後の適切な固定と、その後の十分なリハビリテーションが非常に重要です。特に、肩を安定させるための筋肉をしっかりと鍛えることが欠かせません。しっかりリハビリを行っても再発を繰り返す場合は、損傷した組織を修復するための手術が検討されることもあります。

Q5: スポーツへの復帰はいつ頃できますか?焦ってはいけませんか?

A5: スポーツへの復帰時期は、ケガの重症度、回復のスピード、行うスポーツの種類、そしてリハビリの進捗によって大きく異なります。 一概に「〇ヶ月で復帰できる」とは言えません。

一般的に、脱臼した肩に負担のかかる動作がない軽い運動(例:ジョギングなど)であれば、比較的早い段階(痛みがなくなり、ある程度動かせるようになってから)で開始できることもありますが、肩への衝撃や腕を使う動作が多いスポーツ(球技、格闘技など)への復帰には、より慎重な判断と長いリハビリ期間が必要です。

最も大切なのは、焦らないことです。
痛みが完全に消失し、肩の動き(可動域)が十分に回復し、脱臼するリスクのある体勢をとっても不安がなく、必要な筋力がしっかり戻ってからでないと、再発する可能性が非常に高くなります。医師や理学療法士と十分に相談し、肩の状態を客観的に評価してもらいながら、段階的に復帰を目指しましょう。リハビリの期間や内容は個人差が大きいので、他の人と比較せず、ご自身の体の状態を最優先に考えてください。

最後に

肩関節脱臼は、突然の出来事で、非常に痛く、怖い思いをするケガです。
しかし、パニックにならず、落ち着いて適切な応急処置(動かさないこと!)を行い、すぐに医療機関を受診することが、その後の回復への最も大切な第一歩となります。

整復を受け、適切な固定期間を終えたら、根気強くリハビリテーションに取り組み、再発予防を意識した体のケアを続けることで、多くの場合、ケガをする前と同じように肩を動かし、スポーツを含む活動的な生活に戻ることが可能です。

つらい時や不安な時は、遠慮なく医療機関の看護師に相談してください。私たちも、皆さんが安全に回復し、活動的な毎日を送れるよう応援しています。

出典:

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