「急に意識を失って倒れてしまった…」
「手足が勝手にピクピク痙攣(けいれん)して、どうしたらいいか分からなかった…」
もしあなたが、このような経験をしたり、身近な人がそのような状態になったりしたら、それは「てんかん」の発作かもしれません。
てんかんは、決して珍しい病気ではなく、適切な理解と対応を知っていれば、過度に恐れる必要はありません。
この記事では、てんかんとはどのような病気なのか、その様々な症状、原因、そして、もし発作が起きた時にどのように対処すれば良いのかについて、看護師の視点から分かりやすく解説します。
てんかんとは:脳の電気的な活動の異常によって起こる病気
てんかん(epilepsy)とは、脳の神経細胞が過剰に興奮することで、繰り返し起こる発作(てんかん発作)を主な症状とする脳の病気です。
発作の症状は、意識を失うものから、体の一部がピクピクするだけのものまで、人によって様々です。
てんかん発作の多様な症状:意識消失だけではない
てんかん発作の症状は、脳のどの部分で、どのように電気的な異常が起こるかによって大きく異なります。
大きく分けると、「全般発作」と「焦点(部分)発作」の2種類があります。
- 全般発作: 脳全体が同時に過剰に興奮することで起こります。
- 強直間代発作(大発作): 意識を失い、全身が硬直(強直)した後、手足が規則的にけいれん(間代)します。舌を噛んだり、失禁したりすることがあります。通常、数分で治まりますが、その後、意識が回復するまでに時間がかかることがあります。
- 欠神発作(小発作): 一瞬(数秒から数十秒)意識がぼーっとなり、動作が止まります。周囲の状況に気づかず、反応もありません。多くは小児期にみられ、大人になると消失することもあります。
- ミオクロニー発作: 瞬間的に、体の一部または全身がピクッと素早く動きます。意識は保たれていることが多いです。
- 脱力発作: 突然、全身または体の一部(特に足)の力が抜け、倒れてしまうことがあります。意識を失うこともあります。
- 強直発作: 全身または体の一部が硬直します。意識を失うことがあります。
- 間代発作: 全身または体の一部がリズミカルにけいれんします。意識を失うことがあります。
- 焦点(部分)発作: 脳の一部分の異常な興奮から始まります。
- 単純部分発作: 意識は保たれたまま、体の一部がピクピクする、感覚異常(チクチクする、しびれる、音が聞こえる、光が見えるなど)、自律神経症状(動悸、発汗、吐き気など)、精神症状(既視感、未視感など)などが起こります。
- 複雑部分発作: 意識の一部または全体に障害がおき、目的のない行動(口をもぐもぐさせる、手をこすり合わせる、歩き回るなど)が見られることがあります。発作の後の記憶がないことが多いです。
発作の症状は、人によって異なり、同じ人でも毎回同じとは限りません。
なぜ脳が異常に興奮する?てんかんの原因
てんかんの原因は、特定できる場合とできない場合があります。
- 症候性てんかん: 脳の損傷や病気が原因で起こるてんかんです。
- 脳卒中(脳梗塞、脳出血)
- 脳腫瘍
- 頭部外傷
- 脳炎、髄膜炎などの感染症
- 先天性の脳の異常
- 遺伝性疾患
- 周産期の脳損傷
- 特発性てんかん: 明らかな脳の病変が見つからず、遺伝的な要因が関与している可能性が高いと考えられているてんかんです。特定の年齢で発症しやすいものがあります。
- 潜因性てんかん: 症候性か特発性かはっきりしないてんかんです。
原因が特定できない場合でも、脳の神経細胞が過敏になりやすい体質などが関与していると考えられています。
もし、てんかん発作が起きたら?周囲の人ができること
もし、身近な人がてんかん発作を起こしたら、慌てずに以下の点に注意して対応しましょう。
- 安全な場所に寝かせる: 周囲に危険なものがないか確認し、平らな場所に寝かせ、体を締め付けているものを緩めます(例:ネクタイ、ベルト)。
- 気道を確保する: 嘔吐した場合に備え、顔を横に向けます。無理に口の中に物を入れたり、体を抑えつけたりしないでください。
- 発作の様子を観察する: 発作の種類、持続時間、体のどの部分がどのように動いているかなどを観察し、可能であれば記録しておきましょう。救急隊や医師に伝える際に役立ちます。
- 救急車を呼ぶべき場合:
- 発作が5分以上続く場合、または繰り返し起こる場合
- 呼吸が苦しそう、または意識が回復しない場合
- 発作中に怪我をした場合
- 初めての発作の場合
- 水中での発作の場合
- 落ち着いて見守る: ほとんどの発作は数分で自然に治まります。慌てずに、回復を待ちましょう。発作後、意識が朦朧としている場合は、 安全な場所で休ませ、声をかけて安心させてあげてください。
てんかんと診断されたら:日常生活で気をつけること
てんかんと診断された場合でも、適切な治療を続けることで、発作をコントロールし、 生活を送ることが可能です。日常生活では、以下の点に注意しましょう。
- 薬の定期服用: 医師の指示に従い、定期的に薬を服用することが重要です。自己判断での中止や量の変更は避け、服用時間を定めたり、アラームを設定したりして飲み忘れを防ぎましょう。飲み忘れた場合は、医師または薬剤師に相談しましょう。
- 規則正しい生活リズム: 十分な睡眠時間を確保し、過労やストレスを避けることが発作予防につながります。規則正しい生活を心がけ、バランスの取れた日常生活を送りましょう。
- アルコールとカフェインの摂取: これらは発作の誘因となる可能性があるため、医師の許可がない限り控えましょう。
- 運転免許と危険な作業: 発作の状態に応じて、運転免許の取得や更新、危険な作業の制限について医師と相談し、指示に従いましょう。
- 入浴と水泳の注意: 発作時に溺れる危険性があるため、一人での入浴や水泳は避け、必ず付き添いがいる状況で行いましょう。入浴時には安全対策を施しましょう。
- 光刺激に対する注意: テレビゲームや強い光の点滅は発作の引き金となることがあるため、適切な距離での使用や明るい環境での利用を心がけましょう。
- ストレス管理: ストレスは発作を誘発する可能性があるため、リラックス方法を見つけてストレスを軽減しましょう。
- 発熱時の注意: 発熱も発作の誘因となることがあるため、体調管理に気をつけ、必要に応じて早めに医療機関を受診しましょう。
- 薬の保管と管理: 薬は適切に保管し、飲み忘れや誤飲を防ぐために注意しましょう。外出時には十分な量を携帯するようにします。
- 発作日記の記録: 発作の日時や状況、症状を記録しておくことは治療に役立ちますので、定期的に記録を取りましょう。
これらの注意点は個々の状況によって異なる場合がありますので、必ず医師の指示に従い、適切なケアを行いましょう。
てんかんQ&A
Q:てんかんは遺伝しますか?
A:てんかん全体としては、遺伝する可能性はそれほど高くありません。しかし、一部の特定のてんかん(特発性全般てんかんなど)では、遺伝的な要因が関与することがあります。ご家族にてんかんの方がいる場合は、念のため医師に相談してみると良いでしょう。
Q:てんかんの発作は、いつ起こるか予測できますか?
A:多くのてんかん発作は、予測することが難しいです。しかし、一部の方には、発作前に何らかの予兆(例:特定の感覚、気分変化など)を感じることがあります。もし予兆を感じたら、 安全な場所に移動するなど、対策をとることができます。
Q:てんかんと診断された場合、学校や仕事で配慮してもらうことはできますか?
A:はい、学校や職場には、あなたの病状を理解し、必要な配慮を求めることができます。 作業内容の制限など、法的な定めがある場合もありますので、医師や相談支援センターなどに相談してみましょう。
Q:てんかんの発作を止める薬はありますか?
A:てんかんの発作を完全に止める薬は現在のところ存在しません。しかし、抗てんかん薬を規則正しく服用することで、多くの方が発作の頻度や重さを減らし、発作をうまくコントロールできるようになります。発作が長時間続く場合(てんかん重積状態)には、医療機関で発作を止めるための専門的な治療が行われます。
Q:てんかんの人は、普通の生活を送れますか?
A:適切な治療を継続し、日常生活での注意点を守ることで、多くの方が普通の生活を送ることができます。運転免許の取得や仕事などにおいて一部制限がある場合もありますが、医師や支援機関と相談しながら、自分らしい生活を築いていくことが大切です。
看護師として伝えたいこと:てんかんは、決して隠す必要のある病気ではありません。
てんかんになると、不安や困難を伴うかもしれません。
しかし、あなたは決して一人ではありません。医療機関では、医学的なサポートだけでなく、日常生活を送る上での様々な相談にも応じさせていただきます。どんな些細なことでも構いませんので、安心して医療機関に声をかけてください。
出典
- 日本てんかん学会:https://jes-jp.org/
- 日本てんかん協会:https://www.jea-net.jp/epilepsy