「最近、喉が渇いて水をたくさん飲む」
「トイレの回数が増えた」
「疲れやすくなった」
「健康診断で血糖値が高いと言われた」…
これらの症状に心当たりはありませんか？
糖尿病は、初期には自覚症状が少ないため、気づかないうちに進行してしまうことがあります。
しかし、放置すると失明、腎不全による透析、神経障害、足の壊疽など、深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
この記事では、糖尿病の原因、症状、診断、治療、予防について解説します。
糖尿病とは：インスリンの作用不足による高血糖状態
糖尿病は、インスリンというホルモンの作用不足によって、血液中のブドウ糖（血糖）の濃度が高い状態（高血糖）が慢性的に続く病気です。
インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる唯一のホルモンです。
食事から摂取したブドウ糖は、インスリンの働きによって細胞に取り込まれ、エネルギー源として利用されます。
しかし、インスリンの分泌量が不足したり、インスリンの働きが悪くなったりすると、ブドウ糖が細胞に取り込まれにくくなり、血液中に過剰なブドウ糖が残ってしまいます。
この状態が慢性的に続くのが糖尿病です。
糖尿病の種類：1型、2型、その他の型
糖尿病は、大きく分けて1型糖尿病、2型糖尿病、その他の特定の原因による糖尿病に分類されます。
- 1型糖尿病： 膵臓でインスリンを分泌するβ細胞が破壊されることによって、インスリンがほとんど分泌されなくなる病気です。自己免疫疾患やウイルス感染などが原因と考えられています。主に若年層で発症することが多いですが、あらゆる年齢で発症する可能性があります。
- 2型糖尿病： インスリンの分泌量が低下したり、インスリンの働き（インスリン抵抗性）が悪くなったりすることによって起こる病気です。遺伝的な要因に加えて、過食、運動不足、肥満、加齢などの生活習慣が大きく関与しています。糖尿病患者の約95%が2型糖尿病です。
- その他の特定の原因による糖尿病： 遺伝子の異常、他の病気（膵臓の病気、内分泌疾患など）、薬剤の影響などによって起こる糖尿病です。妊娠中に発症する妊娠糖尿病もこの中に含まれます。
糖尿病の症状：初期は無症状、進行すると様々な症状が現れる
糖尿病は、初期段階ではほとんど自覚症状がないことが多いです。
そのため、健康診断などで高血糖を指摘されて初めて気づくというケースも少なくありません。
しかし、高血糖状態が続くと、以下のような症状が現れることがあります。
- 高血糖による症状： 喉の渇き（口渇）、多尿、頻尿、体重減少（急な体重減少）、倦怠感、疲れやすい、空腹感（多食）、皮膚のかゆみ、感染症にかかりやすい（傷の治りが遅い）など。
- 高血糖が進行した場合の症状： 目のかすみ、視力低下（糖尿病網膜症）、手足のしびれ、感覚の麻痺、痛み（糖尿病神経障害）、足の壊疽（えそ）、腎機能の低下（糖尿病腎症）など。
これらの症状は、糖尿病以外の病気でも見られるため、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。
糖尿病の診断：血糖値検査とHbA1c検査が中心
糖尿病の診断には、主に以下の検査が行われます。
- 血糖値検査： 空腹時血糖値、随時血糖値、食後血糖値などを測定します。
- HbA1c（ヘモグロビンエーワンシー）検査： 過去1〜2ヶ月間の平均的な血糖値を反映する指標です。血糖値検査と合わせて、糖尿病の診断に重要な役割を果たします。
- ブドウ糖負荷試験（OGTT）： ブドウ糖を飲んでから一定時間ごとに血糖値を測定する検査です。糖尿病の診断だけでなく、境界型糖尿病（糖尿病予備群）の診断にも用いられます。
- 尿検査： 尿糖や尿蛋白などを調べます。
これらの検査結果を総合的に判断し、日本糖尿病学会の診断基準に基づいて糖尿病の診断が確定します。
糖尿病の治療：食事療法、運動療法、薬物療法が三本柱
糖尿病の治療は、血糖値を適切にコントロールし、合併症を予防することを目的としています。
治療の基本は、食事療法、運動療法、薬物療法です。
- 食事療法： バランスの取れた食事を規則正しく摂ることが重要です。適切なエネルギー摂取量、栄養バランス（炭水化物、タンパク質、脂質のバランス）、食事のタイミングなどを考慮し、管理栄養士などの専門家と相談しながら、個々に合わせた食事の献立を作成します。
- 運動療法： 適度な運動は、インスリンの働きを高め、血糖値を下げる効果があります。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を中心に、筋力トレーニングも組み合わせることで、より効果的な血糖コントロールが期待できます。運動の種類、強度、時間、頻度などは、医師や理学療法士などの専門家と相談しながら、個々の状況に合わせて設定します。
- 薬物療法： 食事療法や運動療法だけでは血糖コントロールが不十分な場合、薬物療法が行われます。血糖値を下げる飲み薬（経口血糖降下薬）や、インスリン注射などが用いられます。薬の種類や使用方法は、患者さんの病状やライフスタイルに合わせて、医師が最適なものを選択します。近年では、新しいタイプの糖尿病治療薬も登場しており、治療の選択肢は広がっています。
これらの治療法は、患者さんの病状やライフスタイルに合わせて、医師、管理栄養士、運動療法士などの専門家と連携しながら、最適な治療計画を立てていきます。
糖尿病の合併症：放置すると深刻な健康被害につながる
糖尿病を放置すると、様々な合併症を引き起こす可能性があります。
主な合併症として、以下のものが挙げられます。これらは糖尿病の三大合併症と呼ばれています。
- 糖尿病性神経障害： 手足のしびれ、感覚の麻痺、痛みなどが現れます。進行すると、自律神経障害を引き起こし、消化器症状（便秘、下痢）、排尿障害、立ちくらみなどが現れることがあります。
- 糖尿病性網膜症： 目の網膜の血管が障害されることで、視力低下、失明などを引き起こす可能性があります。
- 糖尿病性腎症： 腎臓の糸球体という部分が障害されることで、腎機能が低下し、進行すると透析が必要になることがあります。
その他にも、動脈硬化（心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症など）、感染症にかかりやすい、足の壊疽（えそ）、認知症のリスク上昇など、全身に様々な影響を及ぼす可能性があります。
これらの合併症は、早期発見・早期治療が非常に重要です。
糖尿病の予防：生活習慣の見直しが鍵
糖尿病、特に2型糖尿病は、生活習慣と深く関わっているため、日々の生活習慣を見直すことで、発症リスクを下げることができます。
また、すでに糖尿病と診断されている場合でも、生活習慣の改善は血糖コントロールを良好に保ち、合併症の進行を遅らせる効果があります。以下では、具体的な生活習慣の見直し方について解説します。
1. 食事療法：バランスの取れた食事が血糖コントロールの基本
食事療法は、糖尿病の予防と治療において非常に重要な柱の一つです。以下の点を心がけ、バランスの取れた食生活を送りましょう。
- 適切なエネルギー摂取量を知る： 自分に必要なエネルギー量を把握し、過剰なエネルギー摂取を避けましょう。年齢、性別、身体活動量などによって必要なエネルギー量は異なるため、医師や管理栄養士に相談して適切なエネルギー量を把握することをお勧めします。
- 栄養バランスを考慮する： 炭水化物、タンパク質、脂質のバランスを適切に保つことが重要です。特に、糖質の過剰摂取は血糖値の急上昇につながるため、注意が必要です。
- 食物繊維を積極的に摂取する： 野菜、海藻、きのこ、豆類などに多く含まれる食物繊維は、食後の血糖値の上昇を緩やかにする効果があります。積極的に食事に取り入れましょう。
- 食べる順番を意識する： 食物繊維を多く含む野菜から食べ始め、次にタンパク質、最後に炭水化物を食べることで、血糖値の上昇を抑えることができます。
- ゆっくりよく噛んで食べる： よく噛んで食べることで、満腹中枢が刺激され、食べ過ぎを防ぐことができます。また、消化吸収も良くなり、血糖値の急上昇を抑える効果も期待できます。
- 間食は控える： 間食は血糖値を上昇させる原因となります。できるだけ間食は控え、どうしても必要な場合は、低GI食品（血糖値の上昇が緩やかな食品）を選ぶようにしましょう。
- アルコールは適量を守る： 過度の飲酒は血糖コントロールを乱す可能性があります。アルコールを飲む場合は、適量を守るようにしましょう。
- 調理方法を工夫する： 油を多く使う揚げ物や炒め物よりも、茹でる、蒸す、煮るなどの調理方法を選ぶことで、摂取カロリーを抑えることができます。
2. 運動療法：インスリンの働きを高め、血糖値をコントロール
適度な運動は、インスリンの働きを高め、血糖値を下げる効果があります。
また、肥満の解消や心血管疾患のリスク低減にもつながります。
- 有酸素運動を中心に： ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動を中心に、無理のない範囲で継続することが大切です。
- 筋力トレーニングも取り入れる： 筋力トレーニングは、筋肉量を増やし、基礎代謝を高める効果があります。有酸素運動と組み合わせることで、より効果的な血糖コントロールが期待できます。
- 運動の強度と時間： 運動の強度や時間、頻度などは、個々の体力や病状に合わせて、医師や理学療法士などの専門家と相談しながら設定することが望ましいです。一般的には、週に150分程度の中強度の有酸素運動が推奨されています。
- 日常生活の中で体を動かす： エレベーターではなく階段を使う、近距離は徒歩や自転車で移動するなど、日常生活の中で体を動かす機会を増やすことも大切です。
3. 適切な体重の維持：肥満は糖尿病の大きなリスク要因
肥満、特に内臓脂肪の蓄積は、インスリンの働きを低下させるインスリン抵抗性を引き起こし、糖尿病のリスクを高めます。適切な体重を維持することは、糖尿病の予防と改善に非常に重要です。
- 食事療法と運動療法を組み合わせる： 食事療法と運動療法を組み合わせることで、効果的に体重を減らすことができます。
- 目標体重を設定する： 現状の体重から5〜10%減量することを目標に、無理のない範囲で減量に取り組むと良いでしょう。
4. その他：禁煙、過度の飲酒を控える、ストレス管理
- 禁煙： 喫煙はインスリンの働きを低下させ、糖尿病のリスクを高めます。禁煙は、糖尿病の予防だけでなく、様々な健康リスクを低減する効果があります。
- 過度の飲酒を控える： 過度の飲酒は血糖コントロールを乱す可能性があります。アルコールを飲む場合は、適量を守るようにしましょう。
- ストレス管理： ストレスは血糖値を上昇させるホルモンの分泌を促すことがあります。適度に休息を取り、趣味やリラックスできる時間を持つなど、ストレスを溜めないように心がけましょう。
5. 定期的な健康診断：早期発見・早期治療のために
定期的な健康診断を受け、血糖値やHbA1cなどをチェックすることで、糖尿病の早期発見につながります。早期に発見し、適切な治療を開始することで、合併症のリスクを大幅に減らすことができます。
これらの生活習慣を見直すことで、糖尿病の発症リスクを減らし、健康な生活を送ることができます。すでに糖尿病と診断されている方も、これらの生活習慣を改善することで、血糖コントロールを良好に保ち、合併症の進行を遅らせることができます。
出典
- 日本糖尿病学会：https://www.jds.or.jp/
