「なんとなく体がだるい…」
「頭痛やめまいが続いてつらい…」
「病院で検査しても『異常なし』と言われるけど、やっぱり体調がすぐれない…」
もし、あなたが今、こうした原因がはっきりしない不調に悩まされているとしたら、それは自律神経失調症かもしれません。
自律神経失調症は、周りからは理解されにくく、「気のせいかな」「私が弱いだけかな」と一人で抱え込んでしまいがちな状態です。
でも、そのつらい症状は、あなたの体が発している大切なサインなのです。
この記事では、看護師の視点から、自律神経失調症のサインや、なぜバランスが崩れてしまうのか、そして、ご自身でできる心と体を楽にするための優しい対策について、分かりやすくお伝えします。
知っておきたい「自律神経」の役割
私たちの体は、意識的に動かしている筋肉や手足以外にも、心臓を動かしたり、呼吸をしたり、食べ物を消化したり、体温を調整したりと、生きていくために必要な活動を無意識のうちに行っています。
この自動調整システムを担っているのが自律神経です。
自律神経には、活動モードの「交感神経」と、リラックス・休息モードの「副交感神経」があり、この二つがバランスを取りながら、体の様々な機能をコントロールしています。
例えば、運動したり緊張したりすると交感神経が優位になり、心拍数や血圧が上がって体を活動状態に切り替えます。
一方、食事の後やくつろいでいる時は副交感神経が優位になり、消化を促したり、心拍数を落ち着かせたりして体を休息モードにします。
自律神経失調症とは、この交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまい、体のあちこちに不調が起こる状態のことです。
まるでオーケストラの指揮者がうまく指示を出せないように、体の色々な部分で乱れが生じてしまいます。
こんな症状に心当たりはありませんか?~自律神経失調症のサイン~
自律神経失調症の最大の特徴は、「不定愁訴(ふていしゅうそ)」と呼ばれる、検査をしても病気として明確な異常が見つかりにくいのに、ご本人にとってはつらく耐えがたい様々な症状が現れることです。症状の現れ方や程度、つらさは人それぞれ異なります。
例えば、このような症状が体の様々な部分に現れることがあります。
- 頭部: 頭痛、頭重感、めまい、立ちくらみ、耳鳴り
- 循環器・呼吸器: 動悸(心臓がドキドキする)、息苦しさ、胸の圧迫感
- 消化器: 食欲不振、吐き気、腹痛、便秘、下痢(または交互に起こる)
- その他身体症状: 体の異常なだるさ(倦怠感)、手足の冷えやしびれ、異常な発汗(多汗)、微熱が続く、のぼせ、肩こりや首のこり、関節や筋肉の痛み
体の症状だけでなく、心にも影響が出ることがあります。
- 精神症状: イライラしやすい、不安感が強い、ゆううつな気分、落ち込み、集中力の低下、やる気が出ない
これらの症状が複数重なって現れたり、「前は頭痛だけだったけど、最近はめまいもするようになった」というように症状が変わったりすることもあります。
体の不調だけでなく、気持ちの面でもつらいと感じる方が多いのが特徴です。
どうしてバランスが崩れるの?~自律神経が乱れる原因~
自律神経のバランスが崩れる原因は一つではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合っていることがほとんどです。
- ストレス:
- 精神的なストレス: 仕事でのプレッシャー、人間関係の悩み、家庭の問題、将来への不安など。
- 身体的なストレス: 過労、睡眠不足、不規則な勤務、冷え、暑すぎる・寒すぎる環境、音や光の刺激など。
- 生活習慣の乱れ:
- 夜更かしや朝食を抜くなどの不規則な食事・睡眠時間。
- 運動不足、または過度な運動。
- 喫煙や過剰な飲酒。
- スマホやパソコンの長時間利用による眼精疲労や同じ姿勢での作業。
- 体質や性格:
- もともとデリケートで環境の変化に敏感な体質。
- 気温や気圧の変化に弱い。
- 物事を真面目に考えすぎる、責任感が強い、完璧主義、感情をうまく表現できないといった性格傾向も、ストレスをため込みやすく自律神経の乱れにつながることがあります。
- ホルモンの影響:
- 思春期や更年期など、女性ホルモンの分泌が大きく変動する時期は、自律神経のバランスが不安定になりやすいことが知られています。
これらの要因が組み合わさることで、自律神経が対応しきれなくなり、心身に様々な不調が現れると考えられています。
看護師と一緒に考える~つらい時の向き合い方と優しいセルフケア~
自律神経失調症は、すぐに「治る」というものではなく、ご自身の心と体の状態を理解し、バランスを取り戻すための「向き合い方」を見つけていくことが大切です。
看護師として、医療的なサポートと並行して、日々の生活でできること、一緒に考えられることをお伝えします。
- まずは医療機関に相談しましょう つらい症状が続く場合、まずは医療機関(内科、心療内科、精神科など)を受診することをお勧めします。症状の原因を特定したり、隠れた病気がないか確認したり、お一人おひとりに合った治療法(薬物療法や心理療法など)やアドバイスを受けることができます。 看護師は、受診をためらうお気持ちに寄り添ったり、医師への症状の説明を一緒に整理したり、医師の指示に基づいた治療をサポートしたり、お薬の飲み方や注意点を確認したりと、医療の場であなたの体調や気持ちをサポートすることができます。一人で抱え込まず、専門家を頼ってください。
- 自分を大切にする優しいセルフケアを見つけよう 医療的なサポートを受けながら、日々の生活の中で心と体がホッとできる時間を作りましょう。
- 体のリズムを整える: 毎日できるだけ同じ時間に寝て、同じ時間に起きるように心がけましょう。難しければ、まずは寝る時間・起きる時間のどちらか一方だけでも意識することから始めます。食事もなるべく規則的に摂り、特に朝食は少量でも良いので何か口にすると、体内時計がリセットされやすくなります。寝る1~2時間前からはスマホやパソコンの使用を控えるのも効果的です。
- 心と体が喜ぶ休息と運動: 「疲れたな」と感じたら、無理せず休息を取りましょう。横になる、ぼーっとする時間も大切です。また、軽い運動は自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。ウォーキング、ストレッチ、ヨガなど、競争するものではなく、ご自身が心地よいと感じるものを、無理のない範囲で生活に取り入れてみてください。近所を15分散歩する、寝る前に軽いストレッチをするだけでも効果があります。
- 「ホッとする」時間を作る: リラックスできる時間を持つことは、副交感神経を優位にするのに役立ちます。温かいお風呂にゆっくり浸かる、好きな香りのアロマを焚く、静かな場所で温かい飲み物を飲む、好きな音楽を聴く、軽い読書や塗り絵、手芸など、自分が「心地よい」「癒される」と感じる時間を意識的に作りましょう。短い時間でも大丈夫です。
- ストレスと上手に付き合う方法を探す: ストレスの原因を全てなくすのは難しいですが、ストレスを感じた時に、ご自身なりの解消法を見つけることが大切です。「信頼できる人に話を聞いてもらう(話すだけで心が軽くなることもあります)」、「自分の気持ちを紙に書き出す」、「自然の中で過ごす」、「好きなことをする」など、いくつか方法を持っておくと良いでしょう。また、「完璧でなくても大丈夫」「頑張りすぎなくて良い」と自分に優しくすることも、ストレスを溜め込まないために重要です。
- バランスの取れた食事: 栄養バランスの良い食事は、心身の健康を支えます。特に、ビタミンB群、カルシウム、マグネシウムなどは自律神経の働きをサポートすると言われています。特定の食品に偏らず、様々な食材からバランス良く栄養を摂るように心がけましょう。
- 一人で抱え込まず、誰かを頼りましょう つらい気持ちや症状を、家族、友人、職場の同僚など、信頼できる人に話してみることは、それだけで心が軽くなることがあります。また、医療機関の看護師や、カウンセリングの専門家、地域の相談窓口などもあなたの味方です。一人で頑張りすぎず、「助けてほしい」と声を上げることは、回復への大切な一歩です。
よくあるご質問に看護師がお答えします
Q1: 自律神経失調症はどのくらいで良くなりますか?
A1: 自律神経失調症は、症状の程度、原因、医療的なサポートを受けているか、ご自身のセルフケアの状況など、様々な要因によって回復までの期間は異なります。一概に「○日で治る」「○ヶ月で良くなる」と断言することはできません。
しかし、多くの場合、原因となっているストレス要因が軽減されたり、生活習慣が整ったり、ご自身に合ったセルフケアを続けたり、医療的なサポートを受けたりすることで、数週間から数ヶ月で症状が和らいでくることが多いです。
症状が長く続いている場合でも、適切な対処法を見つけることで、以前より楽になったり、症状が出てもコントロールできるようになったりすることは十分に可能です。
大切なのは、焦らないことです。
「いつ治るんだろう…」と不安になるよりも、「少しでも楽になるように、今日できることは何かな?」と、目の前の小さな一歩に目を向けてみてください。
ご自身の心と体の変化を丁寧に観察し、専門家と共に、ご自身のペースで回復を目指しましょう。
Q2: どんな食事や栄養に気を付けたら良いですか?
A2: 自律神経のバランスを整えるためには、特定のものを摂るというより、バランスの取れた食事を規則的に摂ることが最も大切です。
特に、神経の働きをサポートするビタミンB群(豚肉、大豆製品、玄米など)、精神的な安定にも関わるカルシウム(牛乳、小魚、小松菜など)やマグネシウム(海藻、ナッツ類など)、抗酸化作用のあるビタミンC・E(野菜、果物、ナッツ類など)などを意識して摂ると良いと言われています。
カフェインやアルコールは自律神経を刺激したり、睡眠の質を下げたりすることがあるため、特に夕方以降は控えるのがお勧めです。
冷たい飲食物も体を冷やし、自律神経の乱れにつながることがあるので、温かい飲み物を選ぶなど、体を冷やさない工夫もしてみましょう。
完璧を目指す必要はありません。
まずは三食きちんと摂る、野菜を多めに摂る、といったできることから始めてみてくださいね。
Q3: 病院に行くのをためらってしまいます…何科に行けば良いですか?
A3: つらい症状があるのに受診をためらってしまうお気持ち、よく分かります。でも、あなたのそのつらさは「気のせい」ではありません。一歩踏み出して専門家に相談することが、楽になるための最初の、そして最も大切なステップです。
まずはかかりつけの内科医に相談してみるのが良いでしょう。他の病気の可能性がないか診てもらうことができます。自律神経失調症の診断や治療を専門的に行うのは、心療内科や精神科です。
ストレスや心の状態が症状に強く関わっていると感じる場合は、これらの科を受診することも検討してみてください。
もし、どの科に行けば良いか分からない、病院に行くのが怖いと感じる場合は、地域にある精神保健福祉センターや保健所に相談してみるのも良い方法です。電話相談などができる場合もあります。
また、すでに通院している他の科で看護師に相談してみるのも良いでしょう。看護師は、あなたの話を聞き、適切な相談先を一緒に考えたり、受診への不安を和らげたりするお手伝いができます。
看護師より:最後に
自律神経失調症は、誰にでも起こりうる、決して特別なことではありません。
見えないつらさだからこそ、一人で抱え込まず、どうかご自身を責めないでください。
あなたの体は、一生懸命バランスを取ろうとして、不調というサインを送っています。そのサインに耳を傾け、ご自身を大切にする時間を作り、必要であれば周りや医療の専門家を頼ることが、心穏やかに過ごせる日々を取り戻すための大切な一歩となります。
この記事が、今つらいと感じているあなたの、少しでもお役に立てれば幸いです。応援しています。
出典
- 恩賜財団済生会 自律神経失調症:https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/autonomic_dysfunction/
- 日本自律神経学会:http://www.jsnr-net.jp/