夏場になると、
「子供の体に赤いブツブツができて、あっという間に広がってしまった…」
「水ぶくれが破れてジュクジュクしている…」といったお悩みで、皮膚科を受診される方が増えます。
もしかしたら、それは「とびひ」かもしれません。
とびひは、正式名称を「伝染性膿痂疹（でんせんせいのうかしん）」といい、細菌が皮膚に感染して起こる皮膚の病気です。
特に皮膚のバリア機能が未熟な小さなお子さんに多く見られますが、大人にも発症することがあります。
かゆみが強く、掻いた手で他の場所を触ると、火事の飛び火のように瞬く間に広がっていくことから「とびひ」と呼ばれています。
家族や保育園・幼稚園、学校など、集団生活の場での感染拡大を防ぐためにも、とびひについて正しく知り、適切なケアと予防策を講じることがとても大切です。
この記事では、看護師の視点から、とびひがどんな病気なのか、その原因や現れる症状、そして「とびひかな？」と思った時にすべきこと、家庭でできる具体的なケア、そして家族や周りに広げないための予防策について、分かりやすくお伝えします。
とびひ（伝染性膿痂疹）ってどんな病気？
とびひは、皮膚に細菌が感染して、水ぶくれや膿（うみ）を持った発疹ができ、それがどんどん広がっていく皮膚の感染症です。主に2つのタイプがあります。
- 水ぶくれタイプ（水疱性膿痂疹／すいほうせいのうかしん）
- 乳幼児によく見られます。
- 「黄色ブドウ球菌」という細菌が原因のほとんどです。
- 赤みのある皮膚に、小さな水ぶくれ（水疱）ができ、それがすぐに破れて、透明な汁や膿を含んだ液体が出てきます。
- 破れた部分は、やがて薄い黄色いかさぶたになり、それが乾燥して治っていきます。
- かゆみが強く、掻きむしると、その手から細菌が体にどんどん広がり、新たな水ぶくれができて「飛び火」していきます。
- かさぶたタイプ（痂皮性膿痂疹／かひせいのうかしん）
- お子さんだけでなく、大人にも見られます。
- 「溶血性レンサ球菌（溶連菌）」という細菌が単独、または「黄色ブドウ球菌」との混合感染で起こることが多いです。
- 厚いかさぶた（痂皮）が特徴です。赤みのある皮膚に膿が溜まり、それが破れて黄色や茶色の厚いかさぶたを形成します。
- ジュクジュクする範囲が広く、熱を持つこともあります。
- 水ぶくれタイプよりも、全身症状として発熱やリンパ節の腫れを伴うことがあります。また、まれに腎臓の病気（急性糸球体腎炎）を引き起こす可能性もあるため、注意が必要です。
なぜ「とびひ」になるの？原因とリスク要因
とびひは、皮膚にいるごく身近な細菌（ブドウ球菌や溶連菌など）が、何らかの原因で皮膚のバリア機能が壊れた部分に入り込むことで発症します。
主な原因とリスク要因は以下の通りです。
- 皮膚の傷: 虫刺されを掻きむしった傷、擦り傷、切り傷、やけどの跡、湿疹（特にアトピー性皮膚炎）など、皮膚にできた小さな傷は、細菌が入り込む「入り口」となります。
- 高温多湿の環境: 汗をかきやすい夏場は、皮膚が湿った状態になりやすく、細菌が繁殖しやすい環境となるため、とびひの発症が増えます。
- 皮膚のバリア機能の低下:
- アトピー性皮膚炎や乾燥肌のあるお子さんは、元々皮膚のバリア機能が弱いため、細菌が侵入しやすくなります。
- あせもなどによって皮膚に炎症が起こると、皮膚が弱くなり、とびひになりやすくなります。
- 不衛生な状態: 汗や汚れをそのままにしておくと、皮膚で細菌が繁殖しやすくなります。
- 集団生活: 保育園、幼稚園、学校、プールなどで、皮膚同士の接触や、タオル・遊具の共有などを通じて細菌が広がりやすくなります。
特に、かゆみが強いとびひは、掻けば掻くほど患部の細菌が手につき、その手で別の場所を触ることで、新たな皮膚の傷に細菌が入り込み、症状が「飛び火」のように広がっていくという悪循環に陥りやすいのです。
「とびひかな？」と思ったら、まず受診を！
お子さんの皮膚に、水ぶくれやジュクジュクとしたかさぶたができ、かゆみが強く、広がり始めていると感じたら、できるだけ早く皮膚科を受診しましょう。
- 正確な診断のため: とびひに似た症状の皮膚病は他にもあります。医師が診察し、適切な診断を受けることが、治療の第一歩です。
- 適切な治療のため: とびひは細菌感染症のため、通常、抗生物質による治療が必要です。自己判断で市販薬を使用しても、症状が悪化したり、治りが遅くなったりすることがあります。
- 感染拡大を防ぐため: 早期に治療を開始することで、症状の悪化を防ぎ、家族や周囲への感染拡大のリスクを減らすことができます。
看護師は、受診される皆さんの不安な気持ちに寄り添い、症状や困っていることについて詳しくお伺いしたり、医師の診察をスムーズに進めるお手伝いをしたり、治療薬の使い方や家庭でのケアの注意点について分かりやすく説明したりします。
とびひの治療と家庭でできるケア（看護師より）
とびひの治療の中心は、細菌を退治するための薬物療法と、それと並行して行う家庭でのケアです。
1. 病院での治療
- 抗生物質の内服薬: とびひの症状が広範囲に及ぶ場合や、かさぶたタイプの場合に処方されます。細菌の種類や症状の重症度に合わせて、医師が適切な期間（通常は数日から1週間程度）処方します。症状が良くなっても、医師の指示通り最後まで飲み切ることが大切です。
- 抗生物質入りの塗り薬（外用薬）: 患部に直接塗る薬です。症状の範囲が狭い場合や、内服薬と併用して使用されます。医師の指示に従って、清潔な手で患部に薄く均一に塗布します。
- その他: かゆみが強い場合は、かゆみ止め（抗ヒスタミン剤）が処方されることもあります。
2. 家庭でできるケア（ここが重要！）
家庭での適切なケアは、とびひを早く治し、他の場所や家族に広げないために非常に大切です。
- 患部を清潔に保つ:
- 毎日、シャワーで患部をきれいに洗い流しましょう。 強い石鹸でゴシゴシ洗うのではなく、泡立てた石鹸（薬用石鹸でなくても大丈夫です）で優しく洗い、シャワーで泡を十分に洗い流してください。ゴシゴシ洗いすぎると、皮膚を傷つけ、かえって悪化させることがあります。
- 入浴は、湯船に浸からずシャワーで済ませるのが基本です。湯船の水を介して家族にうつる可能性があるため、湯船は避けましょう。どうしても浸かりたい場合は、とびひの患部をきれいに洗ってから、家族の最後に入るようにし、湯船から上がったらすぐにお湯を抜いてきれいに掃除しましょう。
- 患部を覆う:
- 掻きむしりや、他の場所への「飛び火」を防ぐため、ガーゼや包帯、絆創膏などで患部を覆いましょう。 ただし、通気性の良いものを選び、ジュクジュクしている場合は、こまめに交換して清潔を保ちましょう。
- 爪を短く切る:
- 掻きむしると、爪の中の細菌が別の場所に広がる原因になります。お子さんの爪は常に短く、丸く整えておきましょう。
- 手洗いを徹底する:
- 患部を触った後や、食事の前など、石鹸を使った手洗いを徹底しましょう。特に、お子さんが掻いた後は、すぐに手洗いを促しましょう。
- タオルや衣類は共有しない:
- とびひの方が使ったタオルや衣類は、必ず分け、使用後はすぐに洗濯しましょう。可能であれば、他の家族のものとは分けて洗うのが理想的です。
- 鼻の穴を清潔に保つ:
- とびひの原因となる黄色ブドウ球菌は、鼻の穴の中に常在していることが多いです。鼻をいじる癖がある場合は、鼻の中も清潔に保つよう心がけましょう。
プールや集団生活について
とびひは感染力が強いため、プールや保育園・幼稚園、学校など、集団生活の場での対応が気になると思います。
- プール: 症状が治まるまでは、プールに入るのは控えましょう。 プールを介して他のお子さんにうつしてしまう可能性があるためです。医師から「もうプールに入っても大丈夫」という許可が出てからにしましょう。
- 保育園・幼稚園・学校: 患部をきちんと覆って、皮膚の露出を避けられ、他の子に移す心配がない状態であれば、登園・登校できることもあります。しかし、園や学校によっては独自の基準があるため、必ず事前に園や学校に相談し、医師の指示を伝えて確認しましょう。
看護師は、これらの家庭でのケアや、集団生活における注意点について、具体的に分かりやすく説明し、皆さんが安心して対応できるようサポートします。
とびひについて、よくあるご質問に看護師がお答えします
Q1: とびひはどのくらいで治りますか？薬を塗ればすぐに良くなりますか？
A1: とびひは、適切な薬（抗生物質の内服薬や塗り薬）を使い始めれば、通常は数日から1週間程度で症状が改善し、治っていきます。 ただし、症状の広がり方や、細菌の種類、治療開始が遅れた場合などによって治るまでの期間は異なります。
薬を塗り始めてもすぐに症状が消えるわけではありません。また、内服薬が処方された場合は、症状が良くなったと感じても、医師に指示された期間は最後まで飲み切ることがとても重要です。 途中でやめてしまうと、細菌が完全に退治されず、再発したり、薬が効きにくい耐性菌ができてしまったりする可能性があります。焦らず、医師の指示通りに治療を継続しましょう。
Q2: かゆみがひどくて、子供が掻きむしってしまいます。どうしたら良いですか？
A2: とびひのかゆみは非常に強く、お子さんが掻きむしってしまうのはとてもつらいですよね。掻きむしると症状が悪化し、他の場所への飛び火も増えてしまうので、以下の対策を試してみてください。
- 患部を覆う: ガーゼや絆創膏、包帯などで患部をしっかりと覆い、直接掻けないようにしましょう。通気性の良い素材を選び、ジュクジュクしていればこまめに交換してください。
- かゆみ止めを使う: 医師に相談して、かゆみ止めの飲み薬（抗ヒスタミン剤など）を処方してもらいましょう。かゆみが軽減されることで、掻きむしる回数を減らせます。
- 爪を短く切る: お子さんの爪は常に短く、丸く整えておき、掻いても傷がつきにくいようにしましょう。
- 冷やす: 患部を清潔なタオルで包んだ保冷剤などで軽く冷やすと、一時的にかゆみが和らぐことがあります。
- 声をかけ、気をそらす: 「掻くと広がるよ」と伝え、絵本を読んだり、おもちゃで遊んだりして、かゆみから意識をそらしてあげましょう。
Q3: 家族にうつさないために、家庭でどんなことに気をつければ良いですか？
A3: とびひは非常に感染力が強いため、家庭内での感染対策が重要です。
- 手洗いの徹底: 患部を触った後や、食事の前など、石鹸を使って流水で丁寧に手洗いを行いましょう。お子さんにも手洗いの習慣をつけさせましょう。
- タオルの使い分け: とびひの方と、他の家族のタオルは完全に分け、共有しないようにしましょう。使用後はすぐに洗濯し、可能であれば分けて洗うとより安心です。
- 衣類や寝具の清潔: 患者さんの衣類や寝具（シーツ、枕カバーなど）はこまめに洗濯し、清潔を保ちましょう。
- 入浴はシャワーで: 基本的に湯船に浸かるのは避け、シャワーで体を洗い流すようにしましょう。どうしても湯船に入りたい場合は、患者さんが最後に入り、入浴後はすぐにお湯を抜いて湯船をきれいに洗い流してください。
- 肌と肌の接触を避ける: 特に、小さなお子さんの場合は、抱っこやおむつ替えなどで肌と肌が直接触れないよう、衣類やガーゼで患部を覆うなどの工夫をしましょう。
- 患部を覆い続ける: 症状がある間は、日中も患部をガーゼや絆創膏などで覆い、露出させないようにしましょう。
これらの対策を家族全員で協力して行うことで、とびひの家庭内感染を効果的に防ぐことができます。
Q4: とびひは跡に残りますか？
A4: 通常、とびひは適切な治療を早めに受ければ、跡を残さずにきれいに治ることがほとんどです。 特に水ぶくれタイプは、皮膚の深い部分にまでダメージが及ぶことが少ないため、治癒後に色素沈着が一時的に残ることはあっても、時間が経てばほとんど目立たなくなります。
しかし、以下のような場合は、色素沈着や、まれに瘢痕（傷跡）が残る可能性がありますので注意が必要です。
- 症状が重症化したり、広範囲に及んだ場合。
- 掻きむしりによって皮膚の深い部分まで傷つけてしまった場合。
- 治療が遅れて、慢性化してしまった場合。
症状が治まった後も、色素沈着が気になる場合は、紫外線対策をしっかり行うなどのケアが大切です。もし跡が残ってしまっても、時間が経つにつれて目立たなくなることが多いですが、気になる場合は皮膚科医に相談してみましょう。
最後に
とびひは、かゆみが強く、あっという間に広がるため、お子さんご本人も、保護者の方も大変な思いをされる病気です。しかし、早めに皮膚科を受診して適切な治療を受け、そしてご家庭で丁寧なケアを実践することで、必ず治る病気です。
「もしかして？」と感じたら、迷わず医療機関を受診してください。そして、医師や看護師の指示に従い、清潔を保ち、患部を保護し、周囲に広げないための対策を根気強く続けていきましょう。
私たち看護師も、皆さんが安心してとびひの治療に取り組み、一日も早く元の元気な生活に戻れるよう、精一杯サポートさせていただきます。
出典：
- 日本皮膚科学会 とびひ：https://www.dermatol.or.jp/qa/qa13/q01.html
- 日本小児皮膚科学会 とびひ：https://jspd.umin.jp/qa/02_tobihi.html
