「ちょっと言葉が出にくい…」
「手がしびれるような…」
普段何気ない体の変化も、もしかしたら脳からの危険なサインかもしれません。
アテローム血栓性脳梗塞は、比較的太い血管が詰まることで起こり、突然深刻な事態を招く可能性があります。
しかし、初期症状にいち早く気づき、適切な行動をとることで、最悪の事態を避けることができるかもしれません。
この記事では、アテローム血栓性脳梗塞の初期症状、その原因、治療法、そして何よりも大切な予防について、看護師の視点から、あなたの疑問や不安に寄り添いながら丁寧に解説します。
アテローム血栓性脳梗塞とは:動脈硬化が引き起こす血管の詰まり
アテローム血栓性脳梗塞は、脳に血液を送る比較的太い血管(頸動脈や脳内の太い血管)の内壁にできたアテローム(粥腫)と呼ばれる脂肪性の塊が原因で、血管が狭くなり、さらに血栓(血のかたまり)が形成されて血管が詰まり、脳の血流が途絶えてしまう病気です。
脳の血流が途絶えると、その部分の脳細胞は酸素や栄養を受け取ることができなくなり、働きを失ってしまいます。これが、様々な神経症状を引き起こす原因となります。
見逃さないで!アテローム血栓性脳梗塞の初期症状
アテローム血栓性脳梗塞の症状は、詰まった血管の部位や範囲によって異なりますが、初期に見られるサインとして、以下のようなものがあります。これらの症状に気づいたら、決して放置しないでください。
- 一過性の手足の麻痺やしびれ: 片方の手や足に力が入りにくい、感覚が鈍い、しびれる
- 一時的な言葉のもつれや理解力の低下: 言葉が出てこない、呂律が回らない、相手の言うことが理解しにくい
- 急な視力障害: 片方の目が見えにくい、視野が狭くなる
- 原因不明のふらつきやめまい
- 激しい頭痛
これらの症状は、数分から数十分で自然に治まることもありますが、それは「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれる、本格的な脳梗塞の前兆である可能性が高いです。
危険なサイン!一過性脳虚血発作(TIA)を見逃さないで
一過性脳虚血発作(TIA)は、「ミニ脳梗塞」とも呼ばれ、症状が一時的に治まるため、軽く見過ごされがちです。
しかし、TIAを起こした人の約5年以内に、本格的な脳梗塞を発症するリスクが高いことがわかっています。
TIAは、脳梗塞が起こる前の大切な警告サインです。症状が治まったからといって安心せずに、すぐに医療機関を受診し、医師の診察を受けることが、将来の脳梗塞を防ぐために非常に重要です。
アテローム血栓性脳梗塞の根本原因:動脈硬化の進行
アテローム血栓性脳梗塞の根本的な原因は、動脈硬化の進行です。
血液中のコレステロールや中性脂肪などが過剰になると、血管の内壁にアテローム(粥腫)が蓄積し、血管の内腔が狭くなり、血管壁が硬くなります。
この状態が続くと、血管の内壁が傷つきやすくなり、そこに血小板が集まって血栓ができやすくなります。この血栓が血管を塞ぐことで、脳梗塞が引き起こされます。
知っておきたい!アテローム血栓性脳梗塞の危険因子
アテローム血栓性脳梗塞のリスクを高める要因として、以下のものがあります。これらの危険因子をコントロールすることが、脳梗塞の予防につながります。
- 高血圧
- 糖尿病
- 高脂血症(脂質異常症)
- 喫煙
- 肥満
- 加齢
- 不整脈(特に心房細動)
- 運動不足
- 過度の飲酒
- ストレス
アテローム血栓性脳梗塞の治療:早期発見と迅速な対応が重要
アテローム血栓性脳梗塞の治療は、発症からの時間経過が非常に重要です。
- 超急性期治療(発症後数時間以内): 血栓を溶かす薬(t-PA)の点滴投与や、カテーテルを用いて血栓を回収する治療が行われることがあります。
- 急性期治療: 脳の腫れを抑える薬、血圧を下げる薬、抗血小板薬や抗凝固薬などが用いられます。
- 慢性期・回復期: 再発予防のための薬物療法(抗血小板薬、抗凝固薬、高血圧や糖尿病などの基礎疾患の治療薬)、リハビリテーション(運動療法、言語療法、作業療法など)が行われます。
アテローム血栓性脳梗塞を予防するために:今日からできること
アテローム血栓性脳梗塞を予防するためには、生活習慣の改善が不可欠です。
- 禁煙: たばこは血管を収縮させ、動脈硬化を促進します。
- バランスの取れた食事: 塩分、脂肪分、糖分を控え、野菜、果物、魚などを積極的に摂りましょう。
- 適度な運動: 定期的な運動は、血圧、血糖値、脂質を改善し、血管を強くします。
- 適切な体重維持: 肥満は生活習慣病のリスクを高めます。
- 基礎疾患の管理: 高血圧、糖尿病、高脂血症などの持病がある場合は、医師の指示に従ってしっかりと治療しましょう。
- ストレス管理: ストレスを溜め込まず、自分に合った解消法を見つけましょう。
- 定期的な健康診断: 自分の健康状態を把握し、早期に異常を発見できるようにしましょう。
アテローム血栓性脳梗塞Q&A
Q:アテローム血栓性脳梗塞の前兆であるTIAが起きた場合、救急車を呼ぶべきですか?
A:はい、TIAの症状は一時的に治まることが多いですが、脳梗塞に進行する可能性が非常に高いため、すぐに救急車を呼んで医療機関を受診してください。一刻も早い対応が、その後の命や後遺症に大きく影響します。
Q:アテローム血栓性脳梗塞のリハビリは、どのくらい続ければ良いのでしょうか?
A:リハビリテーションの期間は、後遺症の程度や回復の状況によって大きく異なります。急性期から始まり、回復期、維持期と、段階的に継続していくことが一般的です。諦めずに根気強く続けることが大切です。医師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など、専門家と連携しながら、目標を持って取り組みましょう。
Q:アテローム血栓性脳梗塞を再発させないためには、何に気をつければ良いですか?
A:再発予防のためには、医師の指示に従った薬物療法を継続することに加え、生活習慣の改善を徹底することが非常に重要です。禁煙、バランスの取れた食事、適度な運動を続け、高血圧、糖尿病、高脂血症などの危険因子をしっかりと管理しましょう。また、定期的な診察を受け、医師と相談しながら治療計画を立てていくことが大切です。
Q:アテローム血栓性脳梗塞になった場合、家族はどのようにサポートすれば良いでしょうか?
A:患者さんの精神的な支えとなることが最も大切です。不安や心配な気持ちに寄り添い、励ましてあげてください。また、日常生活のサポートや、リハビリテーションへの協力も重要です。介護が必要になった場合は、無理のない範囲でサポートし、必要に応じて介護保険サービスなどの利用も検討しましょう。
Q:アテローム血栓性脳梗塞を予防するために、サプリメントを摂取するのは効果がありますか?
A:特定のサプリメントがアテローム血栓性脳梗塞の予防に直接的な効果を示す科学的な根拠は、現時点では十分とは言えません。予防の基本は、バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙などの生活習慣の改善です。サプリメントに頼るのではなく、まずは生活習慣を見直すことが大切です。もしサプリメントの使用を検討する場合は、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
看護師として伝えたいこと:脳梗塞は、時間との闘いです。
アテローム血栓性脳梗塞は、誰にでも起こりうる病気です。
しかし、早期に適切な対応をとることで、命を守り、後遺症を最小限に抑えることができます。「あれ?」と感じたら、どうかためらわずに救急車を呼んでください。
そして、何よりも大切なのは、日々の生活習慣を見直し、脳の健康を守るための行動を始めることです。
出典
- 恩賜財団済生会 心原性脳塞栓症:https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/cardiogenic_cerebral_embolism/
- 日本心臓財団 その症状、もしかして脳卒中?どうする?:https://www.j-circ.or.jp/old/about/jcs_ps5th/index03.html