咳や息切れは要注意?肺がんの症状・原因・治療を徹底解説

スポンサーリンク

肺がんは、気管支や肺胞に発生するがんです。

初期には自覚症状が少ないため、発見が遅れることも少なくありません。
しかし、早期発見こそが治療成功の鍵となります。

この記事では、肺がんの種類、症状、原因、病期(ステージ)、治療法、そして患者さんの生活を支える緩和ケアについて解説します。

肺がんの種類:小細胞肺がんと非小細胞肺がん

肺がんは、大きく分けて肺そのものから発生する「原発性肺がん」と、他の臓器で発生したがんが肺に転移した「転移性肺腫瘍(転移性肺がん)」があります。
ここでは、原発性肺がんについて解説します。

原発性肺がんは、治療方針の違いから大きく2つに分類されます。

  • 小細胞肺がん: 増殖が非常に速く、早期からリンパ節や他の臓器(脳、骨、肝臓など)に転移しやすいのが特徴です。発見時には進行していることが多く、手術が適応とならない場合が多いですが、抗がん剤や放射線治療が比較的有効です。
  • 非小細胞肺がん: 比較的ゆっくりと進行し、早期に発見されれば手術による根治が期待できます。組織型によってさらに細かく分類されます。

非小細胞肺がんは、組織型によって以下の3つに分類されます。

  • 腺がん: 最も頻度が高く、肺の奥の方(肺の末梢)に発生しやすいのが特徴です。非喫煙者でも発症することがあり、非小細胞肺がん全体の約50~60%を占めます。初期には自覚症状がほとんどなく、健康診断などで偶然発見されることが多いです。
  • 扁平上皮がん: 喫煙との関連が深く、比較的太い気管支に発生しやすいのが特徴です。非小細胞肺がん全体の約20~30%を占め、咳や痰(血痰:血液の混じった痰)などの症状が見られることがあります。
  • 大細胞がん: 大型のがん細胞からなり、増殖・転移が早いのが特徴です。非小細胞肺がん全体の約5%程度と比較的まれです。

肺がんの症状:咳、血痰、胸痛、息切れなど

肺がんの症状は、がんの種類や進行度によって異なりますが、以下のような症状が現れることがあります。

  • 咳(せき): 乾いた咳が続く、痰が絡む湿った咳が出る、咳とともに胸の痛みがある、以前からあった咳の性質が変わったなど、様々なタイプの咳が見られます。特に、2週間以上続く咳は注意が必要です。
  • 痰(たん)、血痰(けったん): 痰に血が混じっている場合(血痰)、肺がんの可能性を疑う必要があります。痰の量や血の混じり方は様々です。
  • 胸痛(きょうつう): 胸の奥の鈍い痛み、鋭い痛み、肩や背中の痛みなど、痛みの場所や性質は様々です。深呼吸や咳をすると痛みが強くなることがあります。
  • 息切れ(いきぎれ): 階段の上り下りや運動時に息切れを感じる、安静時でも息苦しいなど、呼吸困難の程度は様々です。進行すると、日常生活に支障をきたすほどの息切れを感じることもあります。
  • 嗄声(させい:声のかすれ): 声帯を支配する神経が圧迫されることで、声がかすれることがあります。
  • 顔や首のむくみ: 上大静脈症候群(腫瘍が上大静脈を圧迫することで起こる)によって、顔や首がむくむことがあります。
  • 発熱(はつねつ): 感染症を合併した場合などに発熱が見られることがあります。

これらの症状は、肺がん以外の病気でも見られるため、自己判断せずに医療機関を受診することが重要です。

肺がんの原因とリスク要因:喫煙、大気汚染、アスベストなど

肺がんの明確な原因は完全には解明されていませんが、以下の要因がリスクを高めると考えられています。
原因は病気を直接引き起こす可能性のあるもの、リスク要因は病気の発症確率を高めるものです。

  • 喫煙: 肺がんの最も重要なリスク要因であり、特に扁平上皮がんや小細胞肺がんとの関連が強いです。喫煙者は非喫煙者に比べて、肺がんのリスクが数倍~数十倍高くなると報告されています(出典:国立がん研究センターがん情報サービス)。特に、喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が高いほどリスクが高まります。
  • 受動喫煙: 自身が喫煙していなくても、周囲の人のタバコの煙を吸うことで、肺がんのリスクが高まります。
  • 大気汚染: 大気中の有害物質(PM2.5など)も肺がんのリスク要因の一つと考えられています。世界保健機関(WHO)も大気汚染が肺がんのリスクを高めることを示しています。
  • アスベスト(石綿): 過去にアスベストに曝露したことがある場合、肺がんのリスクが高まります。特に、肺がんの一種である悪性中皮腫との関連が非常に強いです。
  • 遺伝的要因: 家族に肺がんの既往歴がある場合、リスクが高まる可能性があります。
  • その他: 慢性的な肺の病気(慢性閉塞性肺疾患(COPD)など)もリスク要因となる可能性があります。

肺がんの病期(ステージ):進行度を示す分類

肺がんの病期(ステージ)は、がんの進行度を示す分類で、治療方針を決定する上で重要な情報となります。
非小細胞肺がんと小細胞肺がんで分類方法が異なります。

非小細胞肺がんの病期分類(TNM分類)

非小細胞肺がんでは、TNM分類という国際的な分類が用いられます。T(原発腫瘍)、N(領域リンパ節転移)、M(遠隔転移)の3つの要素を組み合わせて病期が決定されます。

  • T(原発腫瘍): がんの大きさや広がり。
  • N(領域リンパ節転移): リンパ節への転移の有無と範囲。
  • M(遠隔転移): 他の臓器への転移の有無。

これらの要素を組み合わせて、0期からIV期までの病期が決定されます。数字が大きいほど、進行が進んでいることを示します。

以下、各病期を詳細に解説します。
なお、以下はあくまで概要であり、実際の病期診断は、画像検査(CT、PET-CTなど)、病理検査(組織検査)などの結果を総合的に判断して行われます。

  • 0期(上皮内がん): がん細胞が気管支や肺胞の最も内側の層(上皮内)にとどまっている状態です。浸潤(周囲の組織への広がり)は見られません。
  • I期: がんが肺にとどまっており、リンパ節転移がない状態です。腫瘍の大きさによってIA期とIB期に分けられます。
    • IA期: 腫瘍の最大径が3cm以下
    • IB期: 腫瘍の最大径が3cmを超えるが5cm以下
    例:腫瘍の大きさが2.5cmでリンパ節転移がない場合はIA期、4.5cmでリンパ節転移がない場合はIB期となります。
  • II期: がんが肺にとどまっているものの、同側の肺門リンパ節(肺の入り口付近のリンパ節)に転移がある場合、または、腫瘍が大きく胸壁などに浸潤している場合です。 例:腫瘍の大きさが4cmで同側の肺門リンパ節に転移がある場合はII期となります。
  • III期: がんが縦隔リンパ節(心臓や食道などの間にあるリンパ節)に転移している場合、または、腫瘍が広範囲に浸潤している場合です。 例:同側の縦隔リンパ節に転移がある場合はIII期となります。
  • IV期: がんが肺以外の臓器(脳、肝臓、骨、副腎など)に遠隔転移がある状態です。胸腔内(肺がある空間)の別の肺葉に転移がある場合もIV期に含まれます。
    例:脳に転移がある場合はIV期となります。

小細胞肺がんの病期分類

小細胞肺がんでは、限局型と進展型という簡略化された分類が用いられます。

  • 限局型: がんが片側の肺と近くのリンパ節に限局している状態。放射線治療の範囲にがんが含まれる状態です。
  • 進展型: がんが肺の外に広がり、他の臓器にも転移が見られる状態。

肺がんの治療:手術、放射線療法、薬物療法、免疫療法など

肺がんの治療は、がんの種類(小細胞肺がんか非小細胞肺がんか)、病期(ステージ)、患者さんの全身状態、年齢、合併症の有無などを総合的に考慮して、個別に最適な治療法が選択されます。
近年では、複数の治療法を組み合わせた集学的治療が一般的です。

非小細胞肺がんの治療

  • 手術療法: 比較的早期(I期、II期の一部、および選択されたIII期の一部)であれば、手術による根治(がんを完全に治すこと)が期待できます。標準的な手術は、肺葉切除術(肺の一部を切除)とリンパ節郭清(リンパ節を切除)です。胸腔鏡手術やロボット支援手術など、より負担の少ない低侵襲手術も選択肢となります。手術前には、呼吸機能検査などを行い、手術が可能かどうかを判断します。病期だけでなく、患者さんの体力や合併症の有無なども考慮して手術の適応が判断されます。
  • 放射線療法: 手術が難しい場合や、手術後の補助療法(手術後の再発予防)として用いられます。定位放射線治療(ピンポイント照射)など、照射方法も進歩しています。体幹部定位放射線治療(SBRT)は、早期肺がんに対する根治的な治療法として確立されています。また、進行がんによる痛みや出血などの症状を和らげる緩和的な目的でも用いられます。
  • 薬物療法: 化学療法(抗がん剤)、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などが用いられます。進行がんや手術後の再発予防、放射線治療との併用療法などに用いられます。近年では、複数の薬剤を組み合わせることで治療効果を高める多剤併用療法や、がん細胞の遺伝子変異に基づいた個別化治療(患者さん一人ひとりに最適な治療を選択すること)が進んでいます。
    • 化学療法(抗がん剤): 細胞の増殖を抑える薬で、多くの場合、点滴で行われます。プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチンなど)と、他の抗がん剤(ペメトレキセド、ドセタキセル、ゲムシタビンなど)を組み合わせた治療が一般的です。
    • 分子標的薬: がん細胞特有の分子(特定の遺伝子変異によって生じるタンパク質など)を標的とする薬です。特定の遺伝子変異(EGFR、ALK、ROS1など)を持つ肺がんに対して効果を発揮します。内服薬として使用されることが多いです。遺伝子検査で変異の有無を調べ、適応となる患者さんに使用されます。
    • 免疫チェックポイント阻害薬: 免疫細胞のブレーキ役となる分子(PD-1、PD-L1など)の働きを阻害することで、免疫細胞ががん細胞を攻撃するように促す薬です。単独で使用される場合や、化学療法と併用される場合があります。

小細胞肺がんの治療

小細胞肺がんは、進行が早く、発見時には進行していることが多いです。
治療の中心は薬物療法(化学療法)と放射線療法です。

  • 薬物療法(化学療法): 小細胞肺がんは抗がん剤が比較的効きやすいがんです。プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン)とイリノテカンまたはエトポシドを組み合わせた治療(PE療法またはPI療法)が標準治療として行われます。近年では、免疫チェックポイント阻害薬を化学療法に上乗せして使用する治療も標準治療の一つとなっています。
  • 放射線療法: 限局型の場合、化学療法と同時に胸部への放射線照射が行われます(同時化学放射線療法)。進展型の場合は、症状緩和を目的に放射線療法が行われることがあります。脳への転移予防として、予防的全脳照射が行われることもあります。
  • 手術療法: 極めて早期(ごく限られた限局型)の場合にのみ、手術が検討されることがあります。手術後には、通常、化学療法が追加されます。
  • 免疫療法: 近年、免疫チェックポイント阻害薬が化学療法と併用して使用されることが増えてきており、治療成績の改善に貢献しています。特に、進展型小細胞肺がんの治療において、化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を上乗せする治療が標準治療の一つとして確立されています。

緩和ケア:つらい症状を和らげるために

がん治療においては、病気そのものだけでなく、痛み、吐き気、食欲不振、精神的な苦痛など、症状や治療に伴う苦痛を和らげる緩和ケアも非常に重要です。
緩和ケアは、診断時から治療と並行して行われることが推奨されています。
痛みに対しては鎮痛薬、吐き気に対しては制吐薬などが用いられます。
精神的な苦痛に対しては、カウンセリングや精神療法なども有効です。

つらい症状がある場合は、我慢せずに担当医や緩和ケアチームにご相談ください。

受診の目安:こんな症状があれば医療機関へ

以下のような症状がある場合は、早めに医療機関(呼吸器内科、呼吸器外科など)を受診することをお勧めします。

  • 長引く咳、または性質が変わった咳
  • 血が混じった痰
  • 胸の痛み
  • 息切れ
  • 声のかすれ
  • 原因不明の発熱
  • 体重減少

特に、喫煙歴のある方は、定期的な検診(胸部X線検査、胸部CT検査など)を受けることをお勧めします。

早期発見のための検査

肺がんの早期発見には、以下の検査が有効です。

  • 胸部X線検査: 胸部のレントゲン写真で、肺の異常陰影などを確認します。簡便な検査ですが、早期の小さな病変を見つけるのは難しい場合があります。
  • 胸部CT検査: X線を使って体の断面を撮影する検査で、X線検査よりも詳細な情報が得られます。特に、低線量CT検査は、従来のCT検査よりも被ばく量を抑えつつ、早期の肺がんを発見しやすいとされています。肺がん検診で推奨されています。
  • 喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん): 痰の中にがん細胞が含まれていないかを顕微鏡で調べる検査です。中心型の肺がんで有用です。
  • 腫瘍マーカー検査: 血液中の特定の物質(腫瘍マーカー)を測定する検査です。肺がんの診断の補助として用いられることがありますが、単独で診断を確定することはできません。

これらの検査を組み合わせて行うことで、早期のがんを発見し、適切な治療につなげることができます。
特に、喫煙歴のある方や、肺がんのリスクが高い方は、定期的な検診(胸部X線検査、胸部CT検査など)を受けることをお勧めします。

肺がんの統計データ

国立がん研究センターがん情報サービスによると、日本における肺がんの罹患数(新たに診断される人の数)は、2020年には約120,759人と報告されています。
男女別に見ると、男性が約81,080人、女性が約39,679人となっています。
罹患率は男性で高く、女性の数倍となっています。年齢別に見ると、50歳代から増加し始め、70歳代でピークを迎えます。

また、2022年の死亡数は約76,663人と報告されています。
男女別に見ると、男性が約53,750人、女性が約22,913人となっています。
罹患率、死亡率ともに近年は若干の減少傾向にありますが、依然として注意が必要な疾患です。

これらの統計データは、国立がん研究センターがん情報サービスなどの公的機関で公開されており、定期的に更新されています。

出典:

タイトルとURLをコピーしました