食道がんは、食道に発生する悪性腫瘍(がん)の総称です。
初期段階では自覚症状がほとんどないため、発見が遅れることも少なくありません。
しかし、早期発見・早期治療により治癒を目指せる可能性のあるがんです。
近年、治療法も進歩しており、患者さんの状態に合わせた適切な治療を選択することで、良好な治療成績が期待できます。
この記事では、食道がんの原因、種類、症状、進行、治療法、緩和ケア、そして受診の目安について解説します。
食道がんの種類:扁平上皮がんと腺がん
食道がんは、発生する組織によって大きく2つの種類に分けられます。
- 扁平上皮がん: 食道の内側を覆う粘膜の扁平上皮から発生するがんで、食道がん全体の90%以上を占めます。喫煙や飲酒との関連が強いとされています。
- 腺がん: バレット食道(胃酸の逆流によって食道粘膜が胃の粘膜に置き換わった状態)から発生するがんです。近年、特に欧米で増加傾向にあり、日本でも増加傾向がみられます。
食道がんの好発年齢と性差
食道がんは、50歳代後半から増加し始め、特に男性に多く見られる傾向があります。
男性は女性に比べて罹患率が数倍高くなることが知られています。
加齢もリスク要因の一つと考えられます。
食道がんの症状:初期は無症状、進行すると飲み込みにくさや体重減少
食道がんの初期段階では、自覚症状がないことがほとんどです。
しかし、がんが進行するにつれて、以下のような症状が現れることがあります。
- 嚥下(えんげ)時の違和感・しみる感じ: 食べ物や熱い飲み物を飲み込んだ際に、胸のあたりにしみるような感じや違和感を覚えることがあります。
- 嚥下困難(えんげこんなん): がんが大きくなると、固形物が飲み込みにくくなります。最初は固形物だけだったものが、進行すると液体も飲み込みにくくなることがあります。
- 体重減少: 食事が十分に摂れなくなるため、体重が減少することがあります。
- 胸や背中の痛み: がんが食道の壁を越えて周囲の組織に浸潤(しんじゅん:周囲の組織に広がる)すると、胸や背中に痛みを感じることがあります。
- 咳(せき)、嗄声(させい:声のかすれ): がんが気管や声帯を調節する神経に及ぶと、咳が出たり、声がかすれたりすることがあります。
食道がんの転移:リンパ節、肝臓、肺、骨など
食道がんは、食道の周囲のリンパ節だけでなく、腹部や首のリンパ節にも転移することがあります。
また、血液の流れに乗って、肝臓、肺、骨などの遠隔臓器に転移することもあります。
食道がんの原因とリスク要因:喫煙、飲酒、加齢など
食道がんの明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下の要因がリスクを高めると考えられています。
- 喫煙: 食道がんの最も重要なリスク要因の一つです。喫煙者は非喫煙者に比べて、食道がんのリスクが数倍高くなるとされています。
- 飲酒: 特に多量の飲酒は、食道がんのリスクを高めます。喫煙と飲酒の両方の習慣がある場合は、リスクがさらに高まります。
- 熱い飲食物の摂取: 熱いお茶やスープなどを頻繁に摂取することも、食道粘膜への刺激となり、リスク要因の一つと考えられています。
- 食生活: 野菜や果物の摂取不足などもリスク要因として指摘されています。
- 加齢: 50歳代以降から罹患率が上昇することから、加齢もリスク要因と考えられます。
- バレット食道: 胃酸の逆流によって食道粘膜が変化した状態(バレット食道)は、腺がんのリスクを高めます。
食道がんの治療:内視鏡治療、手術、放射線療法、化学療法、免疫療法など
食道がんの治療法は、がんの進行度(病期)、患者さんの全身状態、年齢、合併症の有無などを総合的に考慮して決定されます。
近年では、複数の治療法を組み合わせた集学的治療が一般的です。
- 内視鏡的治療: がんが粘膜にとどまっている早期がん(ステージ0またはごく早期のステージI)の場合、内視鏡を用いてがんのある粘膜を切り取る治療(内視鏡的粘膜切除術:EMR、内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD)が可能な場合があります。体への負担が少ない低侵襲治療です。
- 手術: がんが粘膜下層より深く浸潤している場合、がんを含めた食道の一部または全部と、周囲のリンパ節を切除する手術(食道切除術、リンパ節郭清)が行われます。切除範囲はがんの進行度によって異なります。食道を切除した後は、胃、大腸などを用いて食道の代わりとなる管(胃管、大腸管など)を作る再建術が行われます。手術は体への負担が大きいため、患者さんの状態を十分に考慮して選択されます。
- 放射線療法: 高エネルギーの放射線を照射してがん細胞を破壊する治療法です。手術が難しい場合や、手術後の補助療法、または根治を目指した化学放射線療法として行われることがあります。
- 化学療法: 抗がん剤を用いてがん細胞を攻撃する治療法です。手術と併用(術前・術後化学療法)したり、放射線療法と併用(化学放射線療法)したり、進行がんに対する治療として単独で行われることがあります。近年では、複数の抗がん剤を組み合わせることで治療効果を高める多剤併用療法が一般的です。
- 化学放射線療法: 化学療法と放射線療法を同時に行う治療法です。手術が難しい場合などに選択されることがあります。
- 免疫療法: 近年、食道がんの治療において、免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法が使用されるようになってきました。免疫の力を利用してがん細胞を攻撃する治療法で、化学療法との併用や、手術後の補助療法として用いられることがあります。また、特定の遺伝子変異を持つがんに対しては、分子標的薬が使用されることもあります。
食道にステントを入れる治療は、食道の狭窄(狭くなること)による通過障害を緩和するための緩和的治療として行われることがあります。
緩和ケア:つらい症状を和らげるために
がん治療においては、病気そのものだけでなく、痛み、吐き気、食欲不振、精神的な苦痛など、症状や治療に伴う苦痛を和らげる緩和ケアも非常に重要です。
緩和ケアは、診断時から治療と並行して行われることが推奨されています。
つらい症状がある場合は、我慢せずに担当医や緩和ケアチームにご相談ください。
受診の目安:こんな症状があれば医療機関へ
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関(消化器内科、消化器外科など)を受診することをお勧めします。
- 食べ物を飲み込む際に違和感やしみる感じが続く場合
- 食べ物がつかえる感じがするようになった場合
- 体重が急に減少した場合
- 胸や背中に痛みを感じる場合
- 咳が続く場合
- 声がかすれてきた場合
特に、喫煙や多量の飲酒習慣がある方は、定期的な検査(上部消化管内視鏡検査など)を受けることをお勧めします。
早期発見のための検査
食道がんの早期発見には、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が最も有効です。
内視鏡検査では、食道の粘膜を直接観察し、異常な部分があれば組織を採取して病理検査を行うことができます。
定期的な検査を受けることで、早期のがんを発見し、適切な治療につなげることができます。
食道がんの統計データ
国立がん研究センターがん情報サービスによると、日本における食道がんの罹患数(新たに診断される人の数)は、2020年には男性で約20,128人、女性で約4,430人と報告されています。
罹患率は男性で高く、女性の数倍となっています。
年齢別に見ると、50歳代から増加し始め、60~70歳代でピークを迎えます。
また、2022年の死亡数は男性で約8,790人、女性で約2,128人と報告されています。
罹患率、死亡率ともに近年は若干の減少傾向にありますが、依然として注意が必要な疾患です。
生涯で食道がんに罹患する確率は、男性で約2.3%、女性で約0.5%とされています(2019年データ)。
これらの統計データは、国立がん研究センターがん情報サービスなどの公的機関で公開されており、定期的に更新されています。
出典:
- 国立がん研究センター がん情報サービス (https://ganjoho.jp/)
- 日本食道学会 (https://www.esophagus.jp/)
- 国立がん研究センター「がん登録・統計」(https://ganjoho.jp/reg_stat/)